喫茶aveで、会いましょう

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「じゃあ、ええと……アイスコーヒーを1つお願いします」 「かしこまりました。――お相手の方は、何を飲まれましたか?」  はっとして、メニューに落としていた視線をあげた。ひとりでやって来た僕へかけるには不思議な問いと、”飲まれましたか”という過去形への違和感。途端にその場が不思議な空気に包まれたように感じた。目を見開いて、優しい眼差しの店主を見つめる。 「――彼女、あたたかいカフェオレが、好きでした」  知らぬ間に口からその言葉がこぼれ落ちたとき、無意識に頭の中でかけていた彼女の記憶へのストッパーが、音を立てて外れたような気がした。  満足そうにこくりと頷いて、小さく会釈した店主がカウンターへと戻っていく。  どくどくと波打つ心臓の音を感じながら、目を閉じる。陽に透けてオレンジ色をしている瞼の裏に、かつての彼女の姿が立ち上がる。あの日湯気のたつマグカップを脇に置いて文庫本を捲っていた彼女。読書中の頬へ落ちる睫毛の影。読み終わった後かならず深く嘆息して遠い目をする彼女に、僕は、恋をしていたのだ。
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