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「ひさしぶり」
その腕は、僕の目の前の椅子の背もたれを引いた。そして彼女は、日常の続きのように椅子へと座る。
あまりに唐突だった。期待していたとはいえ、どう考えてもあり得ない光景に、僕は呆けて声が出ない。動けない僕の目の前で、彼女は嬉しそうにマグカップへ手を伸ばしてそれに触れた後、店主に微笑みかけながら会釈をした。振り返ると、店主もほっとしたような顔で、お辞儀を返している。
視線を戻す。やはりそこに、僕がずっとずっと想い焦がれていた人が、実体を持って座っている。
セミロングの柔らかそうな髪の毛を右側だけ耳にかけて、そこから覗く耳に、彼女がよく身に着けていたイヤリングが揺れている。
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