野々海 優里 視点

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「お久しぶりです!」  早速窓際に行き、先輩に声を掛けた。 「……ああ、久しぶりです…………えっと、野々(のの)(うみ)さん?」 「すみません、読書中に。あの……空いてたら、ここ良いですか?」  先輩は顔を上げ、くるりと周りを見渡した。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  ペコリと頭を下げ、ランチの乗ったトレーをテーブルに置く。椅子に座り、お手拭きで手を拭きながら、あれ?と違和感を覚える。  先輩、こんな声だったかな? 「お元気でしたか?」 「あ、はい。野々海さんは?」 「はい、おかげさまで。窓際(こっち)は温かいですね」 「…………そうですね。温かいです」  紙コップに注いだ飲料水を一口コクンと飲んだ。  先輩にはずいぶんお世話になったな。 「あ、お会いしたらお礼、言いたかったんです」 「お礼?」 「はい。相談した時、止めて頂いてありがとうございました」  一年ほど前。私は仕事で大きなミスをした。  自信喪失になり、会社に退職届を出すつもりだった私の普段の仕事ぶりを評価してくれ、引き止めてくれたのが先輩だ。異動する事になったけど、先輩が引き止めてくれたから今がある。 「ぶふっ……」 「実は嬉しかったんです。だ、大丈夫ですか!?」  突然、激しくむせ始める先輩。  どうしたんですか!? 先輩! 「だ、大丈夫です……嬉しかったんだ……」 「はい! もちろん。あー、お腹ペコペコ」  先輩の返答に安心し、早速サンドイッチBセット、チーズとベーコンのホットサンドを両手で掴んでかぶりつく。  咳が治まった先輩はふぅぅと大きく息を吐くと、メガネを外し、机に置いた。ホットサンドをくわえてた私は、メガネを外した先輩の顔をまじまじ見る。  ……  ……  ……  …………木村先輩じゃ…………ない、だと!? えっ? あなた、誰!?  あまりの驚愕の事態にホットサンドを咀嚼(そしゃく)せずにゴックンと飲み込んでしまった。慌てて、アイスコーヒーを飲み、ホットサンドを胃に流し込む。 「……喉に詰まりましたか? 大丈夫?」 「大丈夫……です」  見ず知らずの男性の心配そうな声に、とりあえず返事をしたが……  誰ーーー!?  いくらコンタクトをしてないからって、知らない人に「久しぶりです」は酷すぎでしょ、私! しかも、相席までして……どういう状況よ、これ!!  落ち着け、落ち着くのよ、私。挨拶した時に私の名前を知ってたから、面識はあるんだよね?  ……  ……  ……わからん。  どうしよう……久しぶりですって声掛けた私が「どなたですか?」って、今更聞けないぃ!!  なにか……なにかヒントを……今の課か? 今の課にいたのかな……私と入れ替わりで異動になったとか?
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