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誰が?なんで…
「……カイン…」
聞き間違うはずがない
ずっと呼んで欲しかった声
居るはずのない人物の姿を見て、驚きの余り目を見開く
そんな…なんで…
慌てて声を掛けようとした瞬間、気持ちと一緒に迫り上がってくるものを感じ噎せてしまう
「なに、勝手に入って、来てんだ…ゲホッけほっ…んくっ…」
彼にだけは見られたくないと、無理矢理迫り上がってきた花を飲み込む
余りの苦しさに胸を押さえ、蹲ってしまう
「カイン…」
彼の心配そうな声が嫌だ…
いつもみたいに上から見下すようにしろよ
憐れむなよ…
「カイン…それ、花吐き病だろ」
「……さい…うるさいっ!うるさいっ!」
耳を両手で塞ぎ、何も聞きたくないと言うように頭を振る
「ほっといてよ!構わないでよ!オレの中に入って来るなよ!……なんで、なんで……嫌いだ。お前なんて、大嫌いだ」
見られたくないのに、止め処なく涙が溢れ出てくる
「カイン、聞けよ」
ギュッと包み込むように抱きしめられ、言葉を詰まらせる
「なぁ、誰を想ってその花を吐いてる?その、青い薔薇を…」
顔を覗き込んでくる青い瞳が怖い
「オレ以外に、別の奴じゃないだろうな?」
先程から聞いてくる声が怖い
「カイン…オレにしろよ。オレだけを見てろよ」
頬に触れてくる手が熱い
期待したくない…
これ以上、傷付きたくない…
「カイン、愛してる」
セオドアの綺麗な顔が近づいてきて、オレの唇に触れる
信じられない
信じたい
「うっ…ゲホゲホゲホッ」
今まで感じていたよりも酷い痛みに胸を押さえ、中から迫り上がって来るモノを抑えられない
「うえっ…ぇっ…おぇぇ…」
あまりの苦しさに涙が溢れ、口の端から涎が溢れる
あぁ…また、あの青い薔薇か…と諦めたように吐き出した花に目を落とす
そこにはもう見慣れた青はなく、代わりに白銀に輝く百合の花が一輪
「カイン、オレの気持ちを理解したか?」
いつものようなムカつく笑みを浮かべているはずなのに、どこか今にも泣き出しそうな彼の顔に、同じく上手く笑うことが出来ない
「セオドラ…オレ、セオドラが…好きだ。ずっと、ずっと…」
言葉を遮るように深くキスをされる
ずっとして欲しかった
叶わないと思っていた
夕陽が差し込む部屋で、ずっと強く抱きしめ合い、何度も口付けを交わした
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