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まただ
最近、行く先々でガラスに閉じ込められた青い薔薇を見付ける
強固なガラスに封じられた花は枯れることもなく、大輪の花を誇らし気に咲かせているが、決して開けることが出来ず、ただ眺めるだけの置物と化している
「これで3つ目」
ロッカーに1つ
放課後、よく行くテラスに1つ
そして、今、誰も居ないはずのこの図書館に1つ
こんな物が至る所にあれば、噂になっていないはずがないのに
今のところ、オレ以外に見つけた者が居ないかのように学園は静かだ
ガラスの箱を手に取り、夕陽が差し込む窓に掲げる
燃えるような鮮やかなオレンジの光に照らされる、鮮やかな青
その美しさに目を奪われる
「誰かがオレに差し出しているんだろうな…」
キラキラと夕陽を浴びて輝くガラスの箱に口付けをする
余りにも綺麗で
誰かの想いを受け取るように
自分がひとりでよく来る場所にのみ置かれている花
オレに見付けて欲しいと言っているように、1人の時を狙って置かれている花
自然界には存在しない、幻の青い薔薇
この花が自然では発生し得ない
なら、どうやって作られる?
魔法によって咲かせるにしても、存在しないものを咲かせることはできない
ならば、存在しない花を創り出す手段を手に入れれば良い
その方法が書かれた本を過去にこの図書館で読んだ覚えがあり、その本を探す為にこの場所に来た
あの時、アイツもその本を読んでいたな…
と不意に思い出し笑みが溢れる
学園の図書館を使う者は何故か少なく、いつ来ても閑散としている
そのお陰で、オレはこうやってひとり静かに過ごすことが出来るのだが…
植物に関する棚から病気、呪いと順に目的の本が置いて居ないかとゆっくりした足取りで探していく
アイツもよくここで勉強していたな…
ひとりで実験に勤しむアイツにとって、ココの本は魅力的なのだろう
いつも1人でいるアイツが、実験のアイデアを得るのもこの図書館だろうから…
本の背表紙を撫でるように目的の本を探す
『永遠の命を求めるには』
『毒林檎を相手に食べさせる方法』
『魔法でカエルになった相手の解毒と効果』
『恋人との甘い蜜月と喜ばせ方♂♂』
1冊の本の背表紙に指が止まり、その本を手に取る
『世にも奇妙な奇病全集』
探していたモノを見つけ、席に戻りながら目当てのページに目を通す
『花吐き病』
ほぼ存在は抹消された奇病
何が最初の感染源になるのかは未だに解明されておらず、謎の多い病である
片想いの相手への想いが溢れ出したことが原因で花を吐き続ける
花は基本は赤い薔薇の花弁や椿が多いとされ、他にも勿忘草、かすみ草など、想い人への気持ちが花に影響されるようである
花吐き病の患者の花に触れると感染する為、吐き出した花は即刻焼き払う
発病患者の例が少なく、わかっていることが少ない
吐き続けると生命の危機になるが、治療法は………
そこまで目を通し、深い溜息を漏らす
つまり、この花は『花吐き病』から作り出されたモノに違いない
青い薔薇を吐き出す事例は書かれていなかったが、本来存在すら曖昧な花だ
奇病が元で産み出されても納得がいく
この花を産み出している奴は、他人が花に触れれば感染することを知り、開けることの出来ないガラスに封じたと…
しかも、ご丁寧に枯れないように幾重にも多重魔法を使い、このガラスにも細工がされているようだ
こんな面倒な緻密な魔法を使えるのは、教師も含めてこの学園に出来る奴なんて数える程も居ないだろ…
「氷結魔法と風魔法をよく組み合わせて出来ているな…本当、術式を編み出すことに関しては、アイツの才能はオレに匹敵するくらい天才だな…」
そこまでを推測し、何の目的で花をオレに差し出して来るのか…
それがわからない…
伝えきれない程の想いが発病の原因なら、コレを吐き出す程の恋をしていることになる
相手は…何となく想像がついている
アイツがオレに想いを寄せている…?
そうであって欲しいと思う気持ちと、あり得ないと言う気持ちがせめぎ合う
「兎に角、余り時間を掛けるのは得策ではないな…」
生命力を使って生み出される花なだけに、本当にアイツが花吐き病に感染しているのであれば、そのままにすることは出来ない
今は平然としているアイツが、いつ消えてしまうかもわからない
そうなる前に行動に移すことにした
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