プロローグ

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プロローグ

「げほっげほっ、んくっ…う、うえぇ……」 胸から何かが迫り上がってくるような不快感 喉に何かが詰まっているような吐き気と苦しさに耐えられず、人気の全くない寮の廊下の隅で蹲り、口元に手を添えて吐き出してしまう 手のひらには一輪の花があった しっとりとした、ベルベットのような触り心地の花弁 今まで誰も見たこともないような鮮やかな青 誇らし気に咲く大輪の花 一輪の美しい青い薔薇の花がこぼれ落ちていた 「…っ………はぁっ…はぁっ…ウソ、だろ…」 彼の瞳を思い出す綺麗な青につい見惚れてしまう 『不可能』が代名詞の花 自然界には存在し得ない、幻の花 人が花を吐き出すなんて、あり得ないと思いつつも、一つだけ心当たりがあった 古くからあるとされている奇病『花吐き病』 特効薬など存在せず、花吐き病の患者の花に触れた者は感染する 花は吐き続けると命を落とすらしい 治療法はただ一つ 花を吐く程、想いを募らせている相手と両想いにならないといけない 発病した人は稀で、詳しくはまだ解明されていない病 まさか自分には無縁だと思っていた病に自嘲的な笑いが溢れる 「オレが、拗らせるほどの片想いをしてるって…」 こんな奇病を罹って、初めて自分の恋心に気付いた すぐに絡んでくるアイツのことなんて、嫌いだと思っていた 関わり合いたくないと思っているのに、つい目で追ってしまっていた 会えばつい憎まれ口を叩いてしまう相手 オレ、アイツのこと好きだったんだ… 自分の気持ちにこの時、初めて気付いた それと同時にこの病気が治らないことを確信した オレの恋は始まる前から終わってる… こんなことなら、アイツへの気持ちになんて気付きたくなかった…
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