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あああーっ!
荒野の直線道路を走るスポーツカー、その後ろに巨大なタンクローリーがピタリと付けていた。
「やばっ、またぶつけて――」
助手席の青年が言い終える前に後部が軽く突かれた。
ふらつきながらも姿勢を立て直す。
「この世界どうなってんだよ!」
ハンドルを握るスーツ姿の男性がせわしなくバックミラーを見る。
「こっちは三百馬力だぞ、あのトラック異常だ!」
速度計の針は百八十キロを指したまま動かない。
それに息を飲んだ青年が正面を向いた。
「ちょっ、あそこ!」
道路のかなり先にポツンと建物があった。
「あそこに停まれってか! ちょっとでもアクセル緩めらた後ろから吹っ飛ばされるんだぞ!」
怒鳴られた青年の目に絶望の色が浮かぶ。だがある人物の顔が脳裏をよぎった途端、顔つきが変わった。
青年が道路の両脇に広がる砂地を見る。
「あっち、あっちに行って!」
砂地に指先を向ける。
「はっ!?」
ファミレスらしき建物が大きくなってきた。同じ事を言ってる時間は無い。
青年がポケットから何かを取り出し、親指を動かした。
同時に車の向きが変わる。
「うぇっ!?」
スーツ姿の男性が悲鳴を上げると同時に車がアスファルトの道路から砂地に突っ込んだ。
グリップを失った車が砂を巻き上げながら激しくスピンを始める。
タンクローリーといえば驚く様子も無くその横を通り過ぎた。
幾度ものスピンで速度が落ちた車がようやく止まった。
「あでで……うわっ!」
呻きながら顔を上げた青年が驚く。
何故なら助手席のすぐ横にファミレスの壁があったからだ。
転がるように車から降りたスーツ姿の男性が一目散にファミレスに向う。
目をせわしなく周囲に向ける青年がその後を追った。
当然の事ながら今の彼は知らなかった。
後に化け物としかいえないそのタンクローリーを操縦する事に。
つづく
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