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あけたまぶたに、ぼんやりと光がさしこむ。
もしかして、助かったの? ここは病院なの?
まばたきをくり返しても、目の前はかすんだまま。濃い霧のようなものが、たちこめている。
鼻に神経を集中したが、消毒薬のにおいをつかまえることはできなかった。
どうやら、ベッドに寝かされているのではなさそうだ。ぬるい水の中でただようような、今まで経験したことのない感覚だ。
いやな推測がわたしの中に充満する。
ここはあの世で、自分はそこにいる。
受け入れがたい判断は頭を重くし、わたしをうつむかせる。ダンプのグリルを目にしたときの直感は、当たっていたのだ。
垂れた頭が、感電したようにあがった。
由香。由香は? 娘はどうなったの?
まわりに目を凝らしたが、わが子の姿はない。
由香、どこにいるの。
白くぼやけた世界を、泳ぐようにかきわけて進んだ。
会いたい。由香に会いたい。
しかし、どれほどにさまよっても、由香の小さな影を見いだすことはできなかった。
みつからないのは、生きているからだと信じたい。あちらとこちら。身を置く世界が違うから、由香がいないのだと思いたい。
わたしたち二人が顔をむきあわせるとき。それは由香がこちらにきてしまったときだと気づき、わたしは激しく頭をふった。
会うだなんてとんでもない。バカなこと願っちゃダメ。
涙が頬をつたう。しずくはあごの先に集まり、ひとつ、またひとつと白い空間に吸いこまれては消えていく。音がまるでない。静けさに、押しつぶされてしまいそうだ。
わたしは本当にバカだ。ダメな母親だ。どうしてうしろを見たりしたんだろう。せめて赤信号で止まったとき、いや、怒ったこと自体が間違っていたんだ。自分の不満を子供にぶつけるだなんて……。
後悔の波は、絶えることを知らなかった。
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