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クリスマス直前に行われる 一泊二日のボード合宿は、毎年そんなに人が集まらないと聞いていたのだが、蓋を開けてみたらそれなりの人数になった。インストラクターの資格を持つOBの先輩が急に何人か参加することになり、その影響かもしれない。
加納君や麻衣子に誘われて、私も参加することにした。
スキーやボードを目的に雪山に向かうのはいつ以来か、果たして滑れるのか。
麻衣子と共に初心者グループに入れられて、私はボードデビューを果たす。
スキーとは勝手が違うが、インストラクターの先輩からは 筋がいいと褒められた。
麻衣子は案の定何度も転び、お尻が痛くて冷たいと弱音を漏らしながら頑張っていた。
「──あ、A山君と、加納君だ」
「…………あ」
上級者向けのコースを、危なげなく軽快に滑り降りてくる加納君たちの姿を見つける。
うわ……なにあれ、すごい。
遠目でもわかる。加納君、すごい上手じゃない。そっか、だよね、昨日今日始めた人の滑りとは、レベルが違う。
「……なんか二人、めちゃくちゃ上手いね」
「うん」
「格好良いんですけど」
「……そうだね」
「A山君やば、惚れ直しちゃうわ」
「……ゲレンデマジック、あるかも」
「え? ちょっと、雪妃ちゃん? そんなに見つめないでよA山君を。間違って好きになっちゃうじゃない、ぶっぶー」
「あは、ごめんごめん、ならないって」
ちがう──。
見ていたは別の人。
雪山で見る加納君はとにかく格好良くて、オーラがすごくて、輝いて見えた。
今回、加納君に教えてもらえるとは思っていなかったけど、グループが違うと思いの外話す時間は少なくて、関わりがない。
私もいつか、一緒に滑れるくらいになるだろうか。……まだ全然無理そう。
けど、なんだろう? このもどかしい気分は。なんかちょっと、すごく不自由だ。
その日の夕食時に食堂で、加納君のいるグループとすれ違う。彼らはもう食事を終えて部屋に戻るところだった。
食堂の端と端、数メートル離れたところでお互いの存在に気づき、目が合う。
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