12月31日

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 店長や副店長だけでなく、主力であるベテランのスタッフ数名が同時にインフルエンザに罹ってしまった。  余力のあるシフト組みはしていない。そうでなくても人の足りない年末年始のこの時期に、全体を任せられるリーダー的存在の人達が全滅……おおう、マジか。  そんな事ってある? と言いたくなるが、クリスマス前後は激混みで、今月の売上高は十二月としては過去最高を記録している。  休めずに無理して働いていたのかもしれない。疲れが溜まって免疫力が落ちて、結果的に感染が広がってしまったが。……仕方がない、と、頭の中で今後の事を組み立てる。 「大丈夫ですよ。今日から数日間は 私が店にいるようにしますから」 『三吉AMが、ですか? そんな……』  ええ、通常はあり得ないんですけれど、  致し方ない。背に腹は代えられない。 「今回は緊急事態なので そうします。何人かヘルプで来てもらえるかもしれませんし、こちらのことは心配しないで、ゆっくり休んで身体を治してください。スタッフにも私から連絡を入れますので」 『ず、ズみまぜん、ミヨシさん忙しいのに、申し訳ないでゴホッゴホッ──』 「店長、声がもう掠れて全然出てないもの。大根蜂蜜とか飲んで、あ、家に蜂蜜とか食べるものとかある?」 『……食パン、一斤は、あります』  笑っている場合ではないが笑ってしまった。とりあえず、頼れる人が身近にいるようなので安心する。  店長も副店長も、熱が下がれば来年の二日から働けると言う。これ以上感染者が出ないよう注意喚起をし、私がS田南中央店のヘルプに入ったのが、二日前のこと。  私自身は、年末年始を家でのんびり過ごすことなど、社会人になってからはほとんどない。毎年大晦日も元旦も店に出ていた。 もう何年もやってきた年末年始の過ごし方は身に沁みついていて、正直苦にならない。  大晦日は、実は私にとって特別な日でもあるのだが……。とはいえこの十年、例外なく仕事で埋まっていた。
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