5162人が本棚に入れています
本棚に追加
「学生の頃付き合ってた彼女がいて、別れてからは一度も会う機会がなかったんだけど、最近その人の職場を偶然知って、どうしても気になってしょうがないって言うんだよ」
「へえ、別れてどれくらいなんですかね」
「十年以上になるみたいだな」
「十年？ そんなに長く忘れられないって、きついっすね」
「忘れられないっていうかさ、忘れてはいたらしんだよ。ただ、別れてからは一度も会ってないのに、どこかで燻ってる……みたいなそんな感じ。今現在の居場所を知ってしまったせいで、無性に会ってみたくなったって。
………十年ぶりに再会してさ、よりを戻す、というか、もう一度恋に落ちるみたいなことって、あり得ると思う？」
「え、そんなの、無いです絶対に。可能性はゼロに近いんじゃないかと」
「可能性０？ そうなの？」
「まあ、よりを戻すことは、万に一つ、もしかしたらあるかもしれないです。でもなあ、また改めて恋をするう？ ないないない、一度終わった恋なんてそんなもんですよ」
「……へえ、成る程ね」
「どちらか片方に未練があったとしても、もう片方は冷めてるわけじゃないですか。『女は上書き保存、男は新規フォルダ保存』ってよく言いますし、女性はドライですからね、もうとっくにどうでもいい存在になってますよ、元彼なんて。得てしてそうです」
なんだ その例え話は。
見てきたみたいに言いやがって。
彦田君に話した覚えはないぞ、
てか こんな話 、誰にもしたことはない。
「ふうん。ああそう、そうですか……。けどその男にとって、最初につき合ったその彼女だけは、どうしたって他の誰とも比べられないって、特別な存在だって言うんだ。ずっと引っ掛かってるって。どうしたらいい？」
「うわあ、一番目につき合った人なんですか？ 別れて十年でしたっけ？ それはね、良かったところだけピックアップして覚えてて、神格化しているだけですから。それに つき合ってた頃の初心な彼女なんて、もうどこにもいませんよ、二十代の十年間って大きいですし。多分、もう一度つき合えば幻滅して嫌になるでしょうから、再会して試しにおつき合いしてみたらいいじゃないですかね？ でも僕はお勧めしません。わざわざ過去を蒸し返すような恋愛より、割り切って新しい恋に飛び込んだ方が、気楽だし新鮮だし、絶対楽しいと思いますけどねーー」
「…………」
「ん？ どうかしました？？」
最初のコメントを投稿しよう！