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────とはいったものの、そう簡単には会えない。
四回空振り、今日で五回目、いるかいないかもわからない場所に、一縷の望みに賭けて会いに来ている。
十二月三十一日 午後六時二十四分。
「──あ、もうすぐ閉店じゃん」
大晦日の臨時営業時間のため19時で閉店のようだ。入り口に貼ってある案内を確認しながら、店の中へ入った。
さすがにまだ、ラストオーダーとは言われないだろう。
平常ならば混み合う時間帯のはずだが、人は疎らだった。
店内をぐるりと見渡しても、やはり影も形もない、雪妃はいない。
冷静になればなる程、会える気がしない。
それに、三吉とはいえ結婚とかしてるかもしれない。してないにしても、特定の相手がいる可能性は非常に高い。さっき、彦田君に言われた「可能性ゼロ」ってのも、あながち間違いじゃないのだろう。
ダメだ、頼む、結婚とかそれだけは無し、いや、雪妃が幸せなら、それはそれでいい。どっちだよ。
彼女がどういう状況であっても、俺が未練がましく会いに来ただけだ。良くも悪くも、ただそれだけのこと。
「お決まりでしょうか」
「あ、すみません。えーと…………本日のコーヒーって、これですか?」
メニュー表の珈琲豆の種類を、指で指す。
「はい、そうです。直ぐに淹れたてをお出しできます」
「…………」
なんだろうなあ、偶然といえば偶然。
俺にしかわからない、不思議な偶然。
「じゃあ、それにします。本日のコーヒー〝ホンジュラス〟を、ショートで」
「はい! かしこまりました」
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