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淹れたてのコーヒーを受け取って、窓際のカウンター席にいつものように腰を下ろす。
冷えた身体に、熱々のコーヒーが沁みる。美味い、こういう味だったか、
ホンジュラス。
なぜかしんみりして、何も考えられなくなって、静かに窓の外を眺める。
雪の勢いが、少し強くなってきた。
積もらないだろうが。
俺の方は、先程までの勢いは少し落ち着いたが、勿論 火は消えていない。
深い、溜息。
会いたかったな、今日。
連絡を取ろう、雪妃に。
この店が接点となって、そのうち会えるんじゃないかとかのん気に構えていたけれど、無理のようだ。そんなことをしている間に、今のこの気持ちが逃げてしまう。雪妃もどこかへ行ってしまう。
思い立ったが吉日、鉄は熱いうちに打て、今会わないとダメな気がする、俺が。
空から降って来る雪を、ぼんやり眺める。
彼女は今頃、誰と一緒に自分の誕生日を祝っているのか。
「加納君?」
まるで幻聴のように彼女の声が聞こえて、ついに頭までおかしくなったかと思いながら、後ろを振り返る。
「…………」
けれど、幻聴ではなかった。
驚き過ぎてひと言も声が出せないという、初めての経験をする。
全然変わっていない。
感動するくらいに。
話し方も声も、柔らかくて 凛とした空気を纏い、想像していた以上に、雪妃だ。
変わらないどころか、すごくいい。
会えばわかるさ、こうなると思ったよ。
嬉しくて、またすぐに君に夢中になる。
「──おめでとうだよな、今日」
「え……」
「12月31日、誕生日だろ」
不思議そうな顔をして、ハッとしたように目を丸くする。
はは、忘れてたのかよ、自分の誕生日。
「おめでとう」
「覚えててくれたの?」
「……いや、今 思い出した」
今、思い出した? いやいや、
またそんな適当なことを言って………違うだろ? そんな訳ない。
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