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12月31日
❄️
「あ、降ってきた」
日が暮れるのと同時に、空中に白いものが舞い始めた。
微かに、雪の匂いがする。
一瞬で全身が凍り付くような風が吹いて、震えながらコーヒーの香りが漂う店内へと戻った。
「──三吉さん、外どうですか?」
「寒い寒い、風もあるし息真っ白だし めちゃくちゃ寒いよ。降ってきちゃったねえ」
「えーーやだ、ホワイト大晦日ですね~。せめて家に帰るまでは降らないで欲しい」
「ね、積もりはしないと思うけど……。今日はもうあまりお客様来ないだろうし、さくさく閉店作業終わらせて帰りましょう」
「はいっ」
十二月三十一日 午後六時二十分。
日中は客が途切れず忙しかったけれど、夕方くらいから少しずつ人が引き始めた。
レジに立つアルバイトの大学生が、「今日一日、三吉AMに店にいていただいてほんとに良かったです。今年も無事に終わりそうですー」と、ホッとした様子で微笑んだ。
年末年始の営業時間の変更により、今日はあと四十分程で閉店となる。今夜はなるべく早くスタッフの皆を帰した方が良さそうだ────。
大学卒業と同時に某コーヒーチェーン店に就職して、彼是十年近くになる。
本社勤務、新店舗の立ち上げや店舗改修、数店舗の店長業務を経て、今年の春からはA地区を担当するエリアマネージャーとして働いている。
担当する地区の店舗を管理する立場であり責任者であるため、やらなければならない事は数多くあり、特定の店舗のオペレーションをサポートするような事は通常はないのだが、この年末 私が担当している五店舗のうちの一つ、S田南中央店で異常事態が起きてしまった。
*
「──インフルですか。……え、四人!?」
『──はい、そうなんで、すっ、すみませゴオほっ、ゴホゴホッ』
スマホの向こうから、盛大な咳と共にその店の店長の悲痛な声が聞こえる。いつも聞き慣れている朗らかな彼女の声ではない。熱もかなり高いらしく、完全にアウトだ。
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