魔法学校の魔法図書館司書の日常のはじまり

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「えーと、右の棚よーし。左の棚よーし。あ、そこの棚!2段目の右から3番目、場所が違うわよ」  一体、コイツは何をしてるのかって?  その答えを言う前に、ここの魔法書について詳細を説明しよう。  この図書館の本たちは、各々意思を持っている。それは作者である魔法使いの魔力や願いが無意識に反映されるからだとも言われている。  だから中には誰かへの恨みつらみをひたすら書いた本や明確な殺意を持って書かれた呪いの本なども存在する。これはいわゆる禁書に属するモノで、基本的には封印を施した上で魔法学校の図書館ではなく、世界の魔法書を統轄する世界魔法図書館に保管されている。  ワタシも滅多に拝めるものじゃないから禁書の類は無視だ、無視。それよりもこの魔法学校の魔法書たちは基本的に学生たちが触れるレベルのものしか置いていないだから、司書たちの指示にも忠実で、大抵は親切だ。  そのため、本を管理する司書の仕事その一として、学生たちや教師陣が返した魔法書がちゃんと自分の所定位置に帰っているか、チェックする。  帰っていなければ、どこに行っているかワタシはオペラグラスで探し、場所が間違っていることを指摘の上、元の場所がどこかを伝えてやるのだ。  すると、本たちも心得たものであっという間に自分の持ち場へと帰るって言うのが、この図書館の点検業務の一つだ。 「……うん、今回は汚れも破損もなさそうね」  前回確認した時は、1年生の子たちが教室で口論から喧嘩に発展し、更にはお互いに対して魔法で攻撃しあうような事件が勃発した際に運悪く、巻き込まれた魔法書たちがあった。 「前回は、本当に修復するのシンドかったもんなぁ」  所々焼けた表紙、中身は幸い無事だったけど綴じていた背表紙が破損して、危うく何ページか消失しかけた。  その本の姿を見てワタシや他の司書たちも卒倒しかけたのは、記憶に新しい。急いで全員でページの欠けがないか必死にページ順に揃え、至急で背表紙の糊付けした箇所を覆うものと糸で綴じてもいたので両方得意な職人さんを呼んでハラハラと見守っていたものだ。 『あら、まだ前回の悪夢から立ち直ってなかったの?ディア』  前回の修復を思い出してゲンナリしていると、足元から声がした。ふと下を向くとワタシの使い魔兼相棒のリリーが居た。  リリーは、その名の如く見た目も白いペルシャ猫だ。いつも気ままで気位が高いのでなかなか甘えてはくれないけれど、ワタシが仕事中や落ち込んでいる時は優しくも厳しい言葉をくれる頼れる相棒だ。  前回の修復が大変だったって、話しをしたら、向こうの世界のデジタル機器に魔法書の機能を持たせてしまえば?なんて、突拍子もないけれど、考えるには素晴らしいアイデアをくれたのも彼女だ。  ただ、まだ魔法を使えない人間たちの技術を融合するのは難しいので、今のところは保留だね。って話しで終わったのだ。  向こうの世界の技術などという言葉を使うと向こうの世界の大抵の人が、「え、この世界はどんな世界か」と問うてくる。まあ、それを聞いたところで覚えていられるのはほんのひと握りの人だけなんだけどね。  それは要はこの世界が魔法が使える人間と使えない人間の世界が鏡のように存在するせいだ。  魔法使いも系統が2種類居て、よくある元々魔法が使えて魔法のあるこの世界で生まれ育った人。もう一つは生まれてから、突然変異で向こうの世界に生まれたので、こちらの世界へと誘われる人だ。  じゃあ、こちらの世界へ誘われたら向こうへ帰れないのかって?基本的に魔法使いはどちらも行き来できる。  たまーに、こちらへ来て向こうへ帰る魔法が使えない稀な人間が居て、彼ら彼女らはこちらをモチーフにした作品を世に残す。それが向こうの世界の人の中でいわゆるファンタジーと呼ばれるジャンルの元だ。  ちなみに、この場合魔法が使えないので世界を移動している最中に記憶は断片的か完全に消えている。ワタシの読みでは魔法の力が全身を保護する力があるから魔法使いは、記憶も何もかもそのまま行き来できるけれど、魔法の力がない人間は記憶を司る脳にある程度ショックが残るせいだろう説が濃厚だ。  だから向こうの世界に家族のいる魔法使いは、普段は何食わぬ顔で向こうの一般人として生活をして、仕事はこちらで·····なんてパターンもあるし、魔法使いになったものの向こうの世界が魅力的だから、と魔法のコントロールだけ覚えて本当の一般人として生活してしまうもの好きもいるらしい。  あ、ワタシは生まれも育ちもこちらだから向こうの世界には、魔法学校の図書館司書になる前に、向こうの世界で図書館司書のアルバイトという名の職業訓練に行った時くらいしか知らない。  ワタシの本業は別にあるし、科学技術なんてものにも興味がなかったので、スマートフォンなるものを持つようにホームステイ先の魔法使いにならなかった一家から勧められたけど、断った程だ。  ·····本当はスマートフォンなるものの技術や仕組みには興味があったのだけれど、こちらへ戻ったらデンパがなくて使えないと最初に聞いたので一気に興味が失せた。  ま、そんな話はどうでもよくて要は魔法使いは生まれつきと突然変異が居て、世界を行き来できる。それだけが大事だ。  で、話は変わってワタシの働く職場、魔法学校は向こうの世界で有名な児童小説のように大陸や島国ごとにいくつか存在する。それはそうだろう。あまり少ないと魔法使いが突然増えた時に受け入れ先が無くなるし、元々こちらの世界の魔法使いたちも子供を遠すぎる学校に行かせるなんて不安しかないだろう。  そんなことをしてしまったら、多分、いや、確実にあの家とその家とこの家とかは子供の通う学校の近くに一族ごと引っ越してきたり、なんなら役所が学校の中に存在するとか訳の分からないことをしだしかねない。世の中にはそんな親バカな一族も存在するし、それだと全寮制にしている意味も無くなる。  何より魔法にも流派がいくつかあったりするので、流派ごとに分けられている部分もある。  例えば、極東の国にはオンミョウドウ、と呼ばれる流派や南の大陸には呪術的な魔法が得意な流派がある。一方、西の国には妖精を使役する魔法や天使を使役する魔法を使う一団もいるし、東南の国には動物を自在に操る流派もいるらしい。  ワタシはどちらかと言うと妖精を使役する魔法や自然を操作する魔法式を書くのが得意なので、西の国の魔法学校出身だ。  このように基本魔法については低学年でどの学校でも行うが、高学年以降·····それこそ研究職なんかになるとその流派の色が濃くなるので、使い魔選びや自分の身体の魔法の流れを把握する作業は重要事項だ。  本当は流派で言えばオンミョウドウとかその音から神秘的で興味はあるが、星詠みとか暦読みとかがメインらしいので、シキガミとか使役できるのは研究職でもほんのひと握り、生まれつきの要素に左右される。それが現実だと教えられて進学はサッサと諦めた。  それに今はこうして天職に巡り会えたから何事も結果良ければ全て良し!  ·····とまあ、この世界のことや学校のことはともかく(あれ?これ何回目だ?)、前回の悪夢は本当に酷かった。  ワタシが遅くなった昼休憩がてら趣味の青春観察をするために、仕事でも使うオペラグラスを使用しながらご飯を食べていなければ本の救出は遅れていただろう。  あの時のことをゆっくり思い出しながら、本日の業務を進めていこう。
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