小さい頃の

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小さい頃の

 何となく、何をするのにも気乗りしない日ってあるよね。  ミコはまさしく今日がそんな日。  曇っていて、寒くって。  学校にだって行きたくない。  でも、さすがに授業はそんな理由でさぼれないので学校に向かった。 「久しぶり!」  やけに明るい声をかけられたと同時に、突然肩を叩かれてビクッとした。  ミコは大きな音や突然の出来事にストレスを感じてしまう。  HSPなんて呼ばれることもあるが病気ではなく個性なので仕方がない。  後ろを見ると、見ず知らずの女子が嬉しそうに立っている。 「誰?」 「ワコだよ。小学校の1年生まで一緒だった。」 「あ~。あの途中で引っ越した。」 「そうそう。そのワコだよ。戻ってきたの。」 「戻ってきたって?」 「お父さんが転勤族なんだ。今回はようやく本社に戻してもらえて、また、元のお家で暮らすことになったの。お父さんの実家なんだ。」 「そっか。中学校は・・一緒だね。」  ミコは制服を見て、納得した。 「あのね、私大きい音とか、突然背中を叩かれるとかすると、すごく驚いちゃうからさ。できれば静かに声かけてほしいんだ。」  ミコはそういえば、ワコって小学生の時もやたらに元気だったことを思い出しながら言った。 「え?私の声そんなに大きい?それは失礼しました。」  ワコはちょっと膨れたようにそう言った。 「小学校から同じ中学にあがった子、沢山いるからきっと直ぐになじめるよ。」  ミコがそう言うと 「あぁ、そっか。ごめんね。じゃ、他の子と話すことにするよ。」  そういうとワコはスタスタとミコを追い抜いて学校に向かってしまった。 「怒らせちゃったかぁ。。」  悪気で行ったのではないミコは、ため息をついた。  それでなくとも、ミコはすぐに驚くので、クラスでもからかいの的になっていて、これで、ワコが同じクラスだったら、今の事で更にからかわれるかもしれない。  ミコが教室に入ると、ワコがクラスの友達と何やらこそこそ話している。 『あぁ、やっぱり。怒っちゃったんだなぁ。』  ミコがそんな風に考えていると、ワコがこちらにやってきた。  そして、いつものワコではないような声で 「ごめんね。久しぶり過ぎて忘れてたよ。ミコは幼稚園の頃には驚いてよく泣いてたもんね。クラスの子とも今話していたんだけど、からかわれてるんだって?」 「うん。まぁ、私が驚きすぎるからいけないんだけど。」 「でも、それって、ミコは驚きたくなくても驚いちゃうわけでしょう?それをからかうなんてひどいじゃない。  今度そんなことでからかわれたら私に言いなよ。」  ワコは膝をを少し曲げるとシュッシュッと音がするほど素早い正拳突きをクラスの子達に向かって繰り出した。  あぁ、思い出した。  ワコちゃんのうちはサラリーマンの転勤族ではなくて、お父さんが空手の師範代で全国に空手を広めるために転勤したんだった。  幼稚園の時にもミコが大きな音とかに驚くと知ってからは、ミコのそばではいつも静かに一緒に本を読んでいたっけ。 「ふふっ。思い出した。幼稚園の時のワコちゃんの事。昔から優しかったよね。」 「いやいや、ミコは昔から可愛かったからね。」  何やらちょっと意味深なことを言った。 「うふふ、ワコちゃん。久しぶりに会ったけど、昔と変わらず優しいワコちゃんでよかった。」  ミコはようやく笑顔でワコと話せた。  ワコのおかげで、教室内でむやみに大きい音や声を出してミコを驚かせるような行為はなくなった。  そして、個性的なミコをきちんとかばってあげているワコを見て、中学生にもなって、人の嫌がることをしていた自分たちの幼稚さに気が付いたようだった。  クラスのみんなも少し成長できた、ワコとの久し振りの再開の日の出来事だった。 【了】
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