春のシール、冬のアイス

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 それから僕たちは、みんなでアイスクリームを食べに行った。僕が初めてだと言うと、みんなそれぞれにオススメを言ってきて、冬だというのに僕はトリプルを頼む羽目になった。 「無理すんなって言ったのに」  寒い、と繰り返す僕に、小日向くんがホットココアのペットボトルを差し出す。小日向くん以外のみんなはアイスを食べた後すぐ帰ってしまって、駅ビル内のベンチには僕と小日向くんのふたりだけだった。 「いいの?」 「クーポンのお礼」 「ありがとう」  両手で受け取れば、手のひらから熱が流れ込む。 「あったかい」  じんわりと寒さが消えたところで、気づく。教室ではなく駅ビル。隣の机ではなくひとつのベンチ。放課後にこうしてふたりでいるのは、ただのクラスメイトよりも少し、ほんの少し友達に近いのではないか。 「……シール」  不意に落ちてきた声に、顔を上げる。小日向くんが持っていたペットボトルから小さなシールを剥がした。指先には見覚えのある形が貼り付いている。季節が変わって新たなキャンペーンが始まったらしい。 「あ、僕のにも付いてる」  あのときも、こうやってすぐに渡せばよかったのだ。 「はい」  摘んで差し出せば、小日向くんは一瞬戸惑うように瞳を揺らし、ゆっくりと受け取る。シールの粘着面が指から離れ、小日向くんの人差し指と中指にシールが並んだ。 「やっともらえた」 「え?」 「春のときはくれなかったじゃん。ちょーだいって言ったのに」 「え、だって、もう集まったって」  小日向くんは言っていた。もう集まったのだと。そして小日向くんは何も言わなかった。ちょーだい、とも。もういらないから、とも。 「集まったかどうかは関係ないから」 「そうなの?」  うん、と小日向くんが静かに頷く。間近で優しく目を細められ、どこを見ていいかわからなくなる。 「……立花にもらいたかったんだ」  どういう意味? と問いかけるよりも早く「帰るか!」と小日向くんが立ち上がった。  慌てて、僕も立ち上がる。ココアをコートのポケットへ滑り込ませれば「立花」と、先を歩く小日向くんが振り返る。 「またアイス食べような」 「うん」  今度はふたりで、と聞こえた気がしたけど、気のせいだったかもしれない。
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