第六話:リュミスト・ラージャでの日々

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「ぎゃああああ!!! 痛い痛い骨折れるー!!!」  辻本の追突する勢いの猛ダッシュと井川を跳ね飛ばす勢いのタックル。そしてかけられる腕ひしぎ。井川にとっては地獄の時間だろうが、見ている子供達にも地獄の時間である。鬼ごっこ=捕まったら死という概念を植え付けてしまったようだ。東雲と目が合った兎耳の少女がぴょこぴょことものすごい勢いで逃げ出す。果たしてこれはちゃんと『遊び』になっているのだろうか。 「ハヤト、いたそー」 「ミアは参加しないのか?」 「ミア、さいしょはしんぱん!ハヤトに言われた!」  なるほど審判か。と東雲が一人納得していると、よろよろと井川が寄ってくる。 「東雲一尉……どうして止めてくれないんですか……」 「辻本三曹の気持ちはわからんでもない」  「えぇー……」と恨めしそうに東雲を見つめる井川を背に、東雲は軽く走り出した。さすがに辻本対井川の時のように本気を出すわけにはいかない。辻本は井川をチラリと見やるとたたっと別方向へ駆け出した。 「体にタッチしたら攻守交代なんだな」 「はい、そうです。さ、捕まえにいきましょう東雲一尉」 「わかった」  井川も走り出す。先ほどの痛がりようは演技だったかのように、その足取りは軽やかだ。食えないやつだな、と東雲はため息を吐いた。
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