第一話:密命と竜と謎の少女

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 東雲は時計塔へと歩みを進める。街の人々はまるで波が引けるように彼を避けて歩く。そんな中、「軍人さーん!」と声がして、東雲は下を向く。漆黒の瞳が笑顔の少女を捉えた。母親らしき少女は慌てて少女を東雲から離そうとするが、少女はそれを振り切って東雲の元へ辿り着く。  そして、その手に握られた四葉の白詰草を彼に向かい差し出した。東雲は少し困惑したように彼女に目を合わせるように跪く。そして、意識して優しい声で尋ねた。 「これは?」 「いつも街を守ってくれてありがとう! これは幸せのお守りなの! 軍人さんにあったらあげようと思ってたくさん探したのよ!」  そう言って笑って東雲の手に四葉の白詰草をのせる少女。東雲はそれを潰さないようにつまんで、「ありがとう」とふっと笑顔を見せる。それを見た少女は「うん!」と満面の笑みを浮かべ、母親の元へ走っていく。少女の母親は焦ったように礼をした。  東雲はそれを受けて敬礼を返す。その表情は井川に見せた表情よりも、辻本に見せた表情よりも優しく穏やかであった。
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