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そうしてサフィアは嫁いだ。
素敵な美男子のグラナード様に連れられて。
私たち家族は笑顔でサフィアを見送った。
グラナード様はとっても素敵な方だった。
サフィアがあまりに拒否して逃げ回るから、お父様は私やシシリーでもとグラナード様を私に紹介してくださった。
戸惑われたグラナード様は言葉を探していらっしゃるご様子で。
私でも誰でもとならずにいらっしゃるご様子に私のほうがどこか安心した。
「グラナード様、サフィアが失礼をして申し訳ございません。グラナード様はサフィアを貰い受けるつもりでこちらにいらしたのでしょう?」
「はい。アネッサ嬢も美しい方だとは思いますが…」
美しいなんて言ってくれて、私は喜ぶ。
素敵だと思う人に認められるのはうれしい。
「ありがとうございます。私もグラナード様に貰われたいところですが、サフィアのような引きこもりをグラナード様のような方が連れ出してくださるほうがうれしく思うのです。レルネは豊かなところだと聞きますし、サフィアにとってのいい縁談になればと思っております」
私は笑顔でグラナード様に告げた。
サフィアからこの縁談をかっさらうつもりはないと。
私を求めてくれるのならありがたくついていく。
でもサフィアを求めてくれるほうが私はうれしい。
サフィアのお母様のような気持ちで。
「あの子は少し体が弱くあるので無理はさせないでくださいね?ただ、今のように隠れて出てこないお転婆なところもあるので見張りとなれる方をつけてください。それから…」
「アネッサ?なんの話をしている?」
お父様は私に問われる。
「サフィアの取り扱いの説明です」
「……グラナード様の嫁に…」
「なるつもりはありません。素敵な方なのでサフィアをもらっていただきたいと思います」
「おまえはサフィアの母ではないだろうっ?」
「私の大切な妹です。サフィアを守る役目をグラナード様へ引き継いでいるだけです」
そんな話をお父様としていたらグラナード様は笑われた。
笑顔も素敵な方だ。
「アネッサ嬢はしっかりした方ですね。ご期待に添えるようがんばります」
「よろしくお願いいたします」
私はぺこりとグラナード様に頭を下げる。
「いやっ、あのっ、違いますっ。違いますよっ?グラナード様っ」
お父様が私とグラナード様を見てなにか慌てていらっしゃる。
私とグラナード様は気を合わせることができて満足しているというのに。
「アネッサ嬢、サフィアは今どこにいると思われますか?図書室の隠し部屋から階下への梯子は見つけたのですが」
グラナード様は私に問われる。
「食料倉庫からなら裏の庭へとまわったと思いますよ。家の敷地からはめったに出ることはないので。庭でサフィアがすることは読書ですし、ベンチにいるはずです」
「ありがとうございます。探してみます」
「お手数おかけします」
私はまたぺこりと頭を下げて、それではとグラナード様は裏庭へと向かわれた。
お父様はグラナード様をすぐに追われることもなく、私を見られる。
なにかを言われたそうなのになにも仰らない。
「なんでしょう?」
「……結婚相手が嫌だと言っていただろう?」
お父様は仰り、私は自分の相手とグラナード様を比べて溜息をつく。
どう考えてもグラナード様がいいに決まっている。
立て直す領地のお手伝いをするのもいい。
グラナード様に恋するのはきっと時間の問題。
サフィアから奪いたいと思ってしまう前に私も自分の結婚に覚悟を決めないと。
思っても思っても嫌なものはいや。
サフィアみたいに家から離れたくないわけじゃなくて、相手がいや。
それでも。
「私に我慢を強いているのはお父様でしょう?私とサフィアの相手が入れ替わりになるだけなら、私はサフィアが幸せになれそうなほうを選びます。私に王子様は現れなかった。それだけの話です」
言ってるうちに思わずぽろっと涙がこぼれた。
いやなものはいや。
我慢するしかないとわかってる。
結婚するまでの猶予なんて言ってもただの無駄な引き延ばし。
そこに落ち着く道しか私にはない。
王子様に出会ってみたかった。
恋をしてみたかった。
グラナード様はサフィアの素敵な王子様になってくれたらいい。
私のお相手ではない。
お父様は私の前に屈まれて、私の頬に手を当てて涙を拭ってくださる。
「アネッサ…。あちらの家に借りがあるんだ。あちらの要望に逆らえない私を許して欲しい」
なんの慰めにもならない言葉をお父様は私にくださる。
取り止めてくださらない言い訳でしかない。
その言葉は私に我慢を強いているだけ。
私もグラナード様に頼むことで、サフィアにサフィアが願うことでもない話を押しつけているようなもので。
私はもういいと、お父様の手を私から離れさせる。
私に神様はいない。
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