綺麗な娘さん

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私の婚約者となるおじ様は15年上で、前妻に先立たれた方。 子もいない。 商家の方で見目は悪くはないけれど、私が結婚してもいいと了承した方に比べるとどこか下品だし、お話も女性蔑視や他人を見下すようなもので、隣にいたくないと思わせる人で。 お父様に最初にお会いした方とは違うことになってると抗議しまくって結婚を先送りしまくっていた。 極端に言えばあのおじ様でなければ誰でもいい。 それくらい受け入れたくない人。 それでも20になったら嫁ぐことにされている。 猶予はあと1年というときにサフィアの婚約が決まった。 ある朝、騒がしい声に何事かと思うと馬車の行列が屋敷の前にあった。 馬車から運び入れられているのは結納品となるものと思われる。 「シシリー、あなた、結婚するの?」 私は一緒に窓の外を見ていたシシリーに聞いた。 「お姉様がなさるのでしょう?私ではないはずです。私のお相手にと考えられている方は貴族でもないのであんな結納品が贈られることはないかと」 「私のほうだって何年も前に決まってる話だし、あんなの贈ってくれるような方でもないわよ?」 どちらかというとケチ。 浪費家ではないのはいいことかもしれないけれど、ケチもいいものではない。 私とシシリーはじゃあ、サフィアだなと予想はつけて、偵察がてらに馬車を見に行く。 結納品を贈ることは家に破棄をさせない制約にもなる。 本人が嫌がっても。 娘を買うことと同じ。 近づいてみると公爵家の馬車だった。 グラナード様の馬車。 社交界でお見かけしたことはないけれど、19で私と同い年の美男子と聞く。 遊び人という話も聞かない。 数年前に領土が部族の襲撃を受けて、壊滅させられそうになった。 今は領地の建て直しをされているという噂話を聞いたことがある。 ついこの前までお父様がしばらく留守にされていっていらした。 そこでまとめられてきたお話と思われる。 「サフィア、ずるいーっ」 相手がわかると思わず口に出た。 私だってあんなおじ様より若い美男子のほうがいいっ。 お父様がそういうつもりはなかったことくらいわかっているから、嫌々ながらもお会いしてはいるけれど、会うたびに嫌になる。 女たらしでも浮気しまくりでも若いほうがいつか恋をできるかもしれないというのにっ。 垢抜けない方でもいい。 あの下品な方に比べれば。 私の結婚の夢のなさ。 「本当、羨ましいですね。ただ、サフィアがちゃんと受け入れてくれるのか問題ですが」 シシリーの呟きに、あの引きこもりのサフィアが受け入れないことを思う。 受け入れる気がしない。 相手がどんなにいい人でも。 私の現実と比べて幸せだと思って欲しいくらいだ。 「私に比べればシシリーもまだマシよ?」 「いいと思った方に嫁げないので…同じですよ」 いいと思った人がいるシシリーがすでに羨ましい。 私はまだそんな人にも会えてはいない。 唇を重ねたこともない。 このままあのおじ様に嫁ぐだけ。 ………なぜだろう、涙が出そう。 「サフィアはお父様から話を聞いているかしら?グラナード様がどんな方なのか聞きにいってみない?」 私は話題をかえてシシリーに言ってみる。 あわよくばグラナード様を垣間見て恋心というものを経験してみたいだけともいう。 「公爵家なんて近づけそうにないですしね。サフィアにお祝いの言葉を言いそびれる前に急いで行きましょう」 シシリーは早足でサフィアの部屋へと向かう。 お祝いの言葉。 祝えるものなのか私にはわからない。 サフィアは嫁ぐつもりはないだろう。 無理やり公爵様の馬車に乗せなければ出ていきそうにない。 悪い噂話はなにも聞かない相手だし。 サフィアを追い出すくらいでいいかもしれない。 シシリーを追いかけるように早足でサフィアの部屋へ向かった。
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