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メイドが起きてきて顔を洗わせてもらって身嗜みを軽く整えて、朝食の席の準備を手伝う。
おいしそうな焼きたてのパンのにおい。
「アネッサ様、手伝っていただかなくてもいいのですよ?アネッサ様はお客様です」
なんてメイドに言われてしまう。
「邪魔をしていたらごめんなさい。暇なので手伝わせて?」
そんな言葉にしたら、遠慮はしないでくれてお仕事をくれる。
食卓を整えて、そういえばと思い出す。
逃げるように屋敷の中に戻ってしまったけど素敵な人だった。
「私たち家族以外にお客様は城内に泊まっていらっしゃるのでしょうか?」
「ジャスパー様とサフィア様がいらっしゃいますよ」
主役なのだから当然いるだろう。
「他には?」
「城内で寝泊まりするのはメイドと兵士くらいでしょうか?どうかされましたか?」
「朝にこの近くで男性に会ったので誰かわかるかなと」
「兵士の服装ではなかったのですね。…誰でしょう?」
「兵士ではないのでしょうか?」
「ありませんね。職務以外で城内を歩くことは禁止となっております。ここはゲストハウスですし、ジャスパー様の従者とも考えにくいものですし。……王様?」
有り得るとすれば、みたいにメイドは言ってくれる。
「1人で散歩されていらっしゃいましたよ?」
そんなわけあるかと私は言ってみる。
「王様がいらっしゃる建物とは少し離れていますし。違いますね、きっと」
そうそうと私は頷いて、だとしたら、誰?と待ってみてもメイドには思い当たる人はいなかったようだ。
「庭師…とか?」
そんなふうには見えなかったけど。
「さすがに今日という日にそんな下働きの者が彷徨いてることはありませんよ」
「……御者?調理師?」
「有り得ませんねぇ。ゲストハウスは大切なお客様をお泊めするところなので。職務で近づくならわかりますが職務以外では…」
ないないとメイドは頭を横に振る。
あっちが妖精だったのかもしれない。
そう思うほうが容易い。
家族と食事をしたあとは湯浴びをして、式のために着替える。
この日のために新調した衣装。
派手すぎず、シックな装いとなるようなドレス。
着替えはメイドが手伝ってくれて、メイクも髪もしてくれた。
自分でするつもりだったのに。
シシリーは私が整える。
メイドに負けないように。
ミネアを私とシシリーが整えると、迎えの馬車がきて、式典が行われるホールまで運んでくれる。
控え室で少し待たされたあと、案内すると人がきて連れていかれたのは来賓の入ったホール。
知らない方ばかり。
怯えたりしてはいられなくて、シシリーと事前に言っていたように堂々と。
軽く挨拶をして来賓の方々の間を抜けて席へ。
堂々としていたつもりではあるけど、まったく誰の顔も見ていない。
とても男あさりする余裕はない。
ホールを見渡す余裕もない。
とても煌びやかで豪華なのはわかっているけど。
子爵家の娘がいていい場所とは思えない。
私はサフィアの母がわりと自分に言い聞かせて、縮こまりそうになっているお父様を軽く叩いて姿勢を正してもらう。
ミリアのなんにも考えていない余裕が私にも欲しい。
神父の進行で主役はいないまま、列席の私たちにも洗礼のようなことをされる。
豪華な音楽が響き渡って、主役が到着した。
サフィアの姿を見ると、綺麗に飾ってくれていて私がうれしくなる。
余計なことは考えないでサフィアとグラナード様を見ていた。
サフィアは小さすぎるほど背が低いし、グラナード様にお似合いとはとても言えないものなのだけど。
サフィアは誰よりも綺麗だった。
どこか私が誇らしい。
母は違うし、私が育てましたとは言い難いのだけど。
私のサフィア。
あなたが幸せであるようにと願う。
いい結婚式を見れて、サフィアとグラナード様がホールを出られると、王様が列席の方々に挨拶をされる。
初めて王様を見た。
思っていたより若い王様。
顎髭は今朝見かけた方に似ている。
サフィアの式も終わったしと、私はあまりよく王様の話を聞くことなく。
こちらへーと案内してくれる人がきて、王様が退場されたあとに、私たちも退場。
馬車に乗って泊まっている屋敷に送ってもらえる。
私とシシリーとミネアはサフィアが綺麗だったことをきゃっきゃっと話して、お父様はどこか寂しそうにされる。
お父様が1番可愛がってるサフィアが結婚したと改めて認識されたからかもしれない。
サフィアは王族となった。
私の妹ではあるけれど、私は商家へ嫁にいくし、もう気軽には話しかけられない。
宴の席で最後となる言葉をかわせる。
私らしく話したいけれど、なにも言葉が浮かばない。
うれしいのに私もやっぱり淋しい。
幸せになってね。
これだけは言いたいかなと思う。
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