綺麗な娘さん

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「み、ミネア、いくぞ」 なんてお父様はミネアを抱き上げて逃げるように連れ去られた。 私とシシリーは残されて、とりあえずお父様についていかないとはぐれてしまうからといこうとした。 ホールには人が多い。 「お父様、お待ちください」 見失わないように、シシリーともはぐれてしまわないようにと、シシリーに視線でお父様を追いかけるよと言っていこうとしたら。 さっきの方が私の手を握って引き止められて、私は彼を振り返る。 「もう少し君と話したい。バールミントン子爵には逃げられてしまったけれど。君のことはバールミントン子爵から聞いてはいたんだ。美しい人だという噂も聞いていた」 私の噂話なんて悪口としか思えないけれど。 「では、私にはすでに婚約者がいることもご存知でしょうか?知らない方に軽くふれられるような女と思われていらっしゃいます?」 言ってみると手を離してくれた。 「失礼。私はルークといいます。どうしても君を引き止めたかっただけです。婚約者がいることは知っています。それでも…、この夜を私と過ごしていただけませんか?」 私をまっすぐに見て願われた。 年は私よりかなり上に見えるのに、馴れ馴れしい言葉はやめて、どこか紳士に。 私はお父様を追うのはやめて、このルーク様と話してみることにした。 どんな話題をふればいいのかもわからなくて、なにを話せばいいのかもわからない私には、ルーク様から簡単な質問が投げかけられる。 好きなものは?好きな食べ物は?きらいなものは? 私の答えに自分の感想ものせてくれて、ルーク様がなにを好きなのかも私に聞かせてくれる。 私が出会ったどの人よりも紳士。 体やお金だけが目当てのようなものもなく、私に興味があって私に自分を知ってもらいたいというものも伝わる。 私は出会いを求めて、よくない人ばかり知ってしまっていたかもしれない。 純粋に私とのお話を求めてくれる人なんていなかった。 そんなもののような気もして、それでも諦めきれなくて。 私の婚約者がこんなおじ様なら私も恋することができたのに。 「なにか飲まれませんか?甘口のワインか辛口のワインか、どちらがお好きでしょう?シャンパンのほうがいいでしょうか?」 こっちへと私をエスコートするように歩くルーク様の後ろをついていく。 軽くその腕に手をかけて、もう少しゆっくり歩いてと止める。 「私みたいな生意気な小娘の相手をしなくてもよろしいのではありませんか?奥様ももういらっしゃる方でしょう?」 「先立たれてずっと1人ですよ。恋人もいません。アネッサ嬢は小娘ではありませんよ」 「今日は少し大人に仕上げられているだけです。…おいくつですか?」 私から彼に興味を持って聞いていた。 興味を持ったところでなにもないというのに。 「32です。…もう少しアネッサ嬢と歳近ければよかったのに。自分の重ねた年が憎くもなります」 「そんなことを仰っていると私が勘違いしてしまいます」 「勘違いではないかもしれませんよ?」 「子供をからかう悪い大人ですね」 私はバーカウンターでお酒をもらって、私の隣でルーク様もお酒を手にされる。 グラスを手にルーク様はもう少し静かなところへと私を連れていかれる。 私がドキドキしているのはお酒のせいだけではないと思う。 手をかけたルーク様の腕を離せない。 ここは居心地がいい。 バルコニーに出ると外はもう暗くなっていた。 ざわめきは漏れ聞こえてくるけれど、少しは静か。 誰かにぶつかられるようなこともないし、ゆっくりお話ができる。 バルコニーにおかれたベンチに並んで座って、なんだかデートのよう。 「君と…恋愛をしてみたい、と思うのは言ってはいけないことでしょうか?」 「言ってはいけないと思います。私が騙されてしまいます。……結婚、したいとも思えない相手がいて。上手く私を口説いてくださる方がいて。ルーク様は本当にずるい大人です」 「騙してなんかいません。君を初めて見たときから惹かれただけです」 「またそんなことを仰る。どうして…出会えなかったんでしょう?あなたみたいに私の心を慰めて癒してくださるような方」 出会えていれば、今の婚約なんて破棄を…。 …できるわけない。 シシリーのように諦めて嫁ぐだけ。 「それはもちろん、私と出会うため」 ルーク様が仰って、私は少し笑ってルーク様を見る。 ルーク様は私のほうをずっと見ていたみたいに私の顔を見て笑顔をくださる。 その目を惹かれるように見つめた。 「ルーク様の爵位は高いのでしょう?子爵家の娘なんて捨てられるだけでしょう?」 「君が商人や農民の娘でも。捨てたりはしません。出会ったばかりでなんにも信用はないかもしれませんが、君に惹かれている気持ちは受け取ってください」 ルーク様は私の目をまっすぐに見て仰る。 洗脳されているかもしれない。 そんな甘い世の中ではないとわかっているのに。 私は別の人に嫁ぐしかないのに。 ルーク様の頬にふれて包むと、ルーク様は口元を綻ばせて目を閉じられる。
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