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いざ行かん、レオール学園
窓から吹き込んできた春風に誘われるよう、俺は読んでいた本を閉じて外を見た。
眼下には、修復を殆ど終えたヴァレンシール村が広がっている。
戦いの痕はまだわずかに残っているが、それもいずれ何事もなかったように修繕され、元の姿へと戻る事だろう。
その光景を見るのが今から待ち遠しい。
「あれからもう一年か……」
この一年間は本当にあっという間の一年間だった。
自分達の情けなさを呪った幼馴染み四人の特訓に付き合ってやったり、帝国の監視や村の防衛に関する対策を練ったり、セニアとリル、エンドラが試合形式ガチンコ訓練をやるというので治癒師として待機したり、シンシアのドジに巻き込まれたり。
他にも、座学に精を出したり、学園でへまをしないよう手加減をより一層覚えたりと、色々な事をした一年だった。
お陰でみんな、以前とは比べ物にならないくらい逞しくなり、俺も学園でなんとかやっていけるくらいの常識や学力を得る事が出来たと思う。
……最後のはちょっと自信ないけど。
とまあそんなこんなで、遂に出発の日がやってきたのである。
「やっぱり行かないで、リュートちゃん! お母さん、リュートちゃんが居ない生活なんて考えられない! ずっと家に居てー!」
「リュートォォォォ! 週に一回は帰ってくるんだぞぉ! お父さんとの約束だからなあ! うおおおおおん!」
気持ちはわかるけど、流石に泣きすぎじゃね?
「父さん、母さん。 恥ずかしいからやめてくれないかな、村の人達も見てるから」
「うおおおおおん!」
「うわああああん!」
話を聞け。
「──アリン、リュートの事頼んだぜ。 くれぐれも目立たせんなよ」
「わかってるわよ、うっさいわね。 ほら、早く仕事行きなさいよ。 しっしっ」
「お前な……」
「リーリン姉、傍付きのお仕事頑張ってね」
「うん。 ポックルくんもギルドの仕事しっかりね」
二人も別れの挨拶が済んだようだ。
姉妹は仲良く御者台に腰を下ろした。
残るは、エンドラとリル。
なんでも影の円卓騎士団的には、俺の付き添い兼連絡係として少なくとも一人は同行させたいらしく、最終的に竜人状態だと普通の少女にしかみえないエンドラを召し使いに。
最近更に飼い犬っぽくなってしまったリルを番犬として、王都に行くことが決定した。
もちろん、父さんも了承済みだ。
というか、エンシェントドラゴンとフェンリルを置いてかれても扱いに困るというのが最たる理由のようで、必ず連れていくようにとのお達しだ。
俺としてもこいつらから目を離すのは些か不安なので、連れていくのはやぶさかではない。
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