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「――本当に申し訳ありません、姫様。その……先日の宵も、物忌みにて身を慎まなければならなかったものでして」
「……どうか、謝罪などなさらないでください。中将様も大変沈痛な心持ちでいらしたことは、逢えずとも十二分に察せられましたので」
「……姫様」
それから、数日経た夜のこと。
我が邸宅を訪れるやいなや、開口一番深く謝意を述べるのは私より一回りほど歳上の秀麗な男性、中将様。ですが、彼が頭を下げる理由など何処にもありません。物忌みなのですから、致し方ありませんし。
ところで、物忌みとは何かと申しますと――陰陽道に基づく占いにて凶との診断が出た際、厄災を避けるため一日もしくは数日間、家内にて身を慎まなければならないことです。
――そして、二日後の夜のこと。
今夜こそはと一心に祈りお待ちするも、やはり中将様は姿を見せず。……やはり、私達は決して結ばれぬ運命なのでしょうか。
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