祈り

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「――現世の限りで構いません。なので……どうか、どうか……この願いを叶えて頂けませんか」  荘厳たる社殿の前にて、天にまします神様へ深く祈りを捧げます。ちらと隣を見やると、まるで自身のことのように、一心に祈りを捧げる七条(しちじょう)の姿が。……本当、私などには勿体ない殊勝な侍女だと、改めて感嘆を覚える次第です。  そんな私達がいるのは、(みやこ)から遠く離れた森の中――その奥深く、荘厳と佇む社殿の前です。どうして、宮の近くでなくわざわざ骨の折れる遠出をしてまで――もちろん、それには明瞭な理由がありまして。  当神社にて、幾度も一心に祈りを捧げ続けていれば、いつしか慈悲深き神様が願いを聞き入れてくださる――そのような記述が、当家にて代々伝わる書物に記されていたからです。  もちろん、当記述が事実である保証など何処にもありません。ですが……これといった手立てもない以上、神様に縋るより他ないのもまた事実で。 「――さて、そろそろ帰りましょうか。七条」  暫しして、七条を促し神社を後にする私達。そして、骨の折れる帰り道……いえ、大変なのはただ牛車に揺られているだけの私ではないので、不服など述べるべきではありませんが……ともあれ、長く険しい道を進み、数時間の後ようやく邸宅へと到着します。  すると、邸宅から何やらひどく慌てた様子で出てきた一人の侍女。いったい、どうしたというの―― 「……あの、姫様。その……大変、申し上げにくいのですが……突如、お父様がお隠れになりました」  
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