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現世の契り
それから数日後――お父様の遺体は最後まで甚く丁重に扱われた後、火葬にて灰になり空高く舞い上がって行きました。死因は皆目不明――物の怪の類の仕業というのが、邸宅内にて専ら広まっている推測のようです。ですが、原因はどうあれ……心より、御冥福をお祈り致します……お父様。
お父様のお隠れ以降も、七条は変わらず忠実に仕えてくれているものの、当件に関しては一切触れることはありません。聡明かつ思慮深い彼女のことです――安直な慰めの言葉など、私をいっそう苦しめるに過ぎないなどと考えたのでしょう。
ですが、実のところ何よりも辛かったのは――数ヶ月もの期間、中将様に逢えなかったこと。というのも――身内が他界してしまうと、一定期間喪に服すことになっているから。その間は、本当に必要不可欠な来訪以外は受け入れるわけにはいかず、当然ながら私達の逢瀬は彼の条件を満たしてはいませんので。
――それから、数ヶ月経て。
「――ただ今参りました、姫様。その、申し上げて良いものか熟考したのですが……お父様のこと、大変お悔やみ申し上げます」
たなびく雲の隙間より、皓々と輝く月光の射し込む清かな宵の頃。
そう、沈痛な面持ちでお話しする中将様。これで、三夜連続の逢瀬――即ち、私達はめでたく夫婦の契りを交わすこととなります。
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