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これは傍迷惑な有難迷惑味
久し振りに高校時代の同級生である彩と会って食事をすることになった。お互いが住む場所の真ん中にある最近人気になっていた喫茶店で待ち合わせをし、久し振りの再会に私たちは大いに喜んだ。映えと味、コスパも良い料理に舌鼓を打ちながら、近況報告や昔話に花を咲かせた。
「こんにちは~。あ、どうもこんにちは~」
時折、彩は通路の方へ向き直り笑顔で会釈をする。しかし、そこには誰の姿もない。店員が通った訳でもお客が通った訳でもないのに、誰も居ない空間へ会釈をする彩が不思議でならなかった。
「ねえ、さっきから誰に挨拶してるの?」
「え? あ、そっか。真奈美には話してなかったね」
話を聞いてみれば、どうやら彩は昔から霊感があったそうだ。怖い目にも遭っていたため最初は関わらないようにしていたそうだが、同じ霊感を持っている人から幽霊は無視する方が危ないと教わったという。それから彩は無視をせず笑顔で挨拶をするようにしたのだが、以降は一度も怖い目に遭っていないそうだ。
「ふーん。幽霊も挨拶されると嬉しいのかな」
「かもね。私だって無視されるより笑顔で挨拶してもらえた方が嬉しいし」
幽霊は自分が見える人を探しているかもしれないし、見えることを認識される方が危ない気もするが案外そうではないのかも。それくらい挨拶の効果というのは凄まじいということだろうか。私には霊感はないが、関係なく誰に対してもしっかりきっちり挨拶をするようにしないとね。
「あ、でもね。気をつけなくちゃいけない幽霊もいるんだよね」
「何それ」
「遭ったことないからわかんないけどさ。先にあい――」
「こんにちは」
ゆっくりと通路を通りながら、黒く長い髪を揺らして私に笑顔で会釈をしてくれた真っ赤なワンピースが特徴的な女性。引き込まれそうになるくらい素敵なその出で立ちに一瞬見惚れてしまう。ハッと我に返って挨拶をされていたことを思い出した。
「こんにち――むぐ!?」
私も笑顔で挨拶を返そうとした瞬間、伸ばされた手に口が塞がれてしまう。私の口を塞いだのは彩だった。一体どうしたのかと思い彩を見れば、真っ青な顔をしながらぶるぶると首を振っている。それだけで尋常ではない様子なのは理解できたが、理由はまったく分からない。
「帰ろう!? ね!? もう帰ろうか!? 用事あったんだもんね!?」
「あ、ちょっと――」
視線を不自然な方向へ逸らしながら、私の手を引っ張ってレジへ向かう。お釣りはいいですと言いながら台に五千円を慌てて置き、一目散に店の外へ飛び出した。それからしばらく歩き、ようやく彩は足を止めた。
「アレ、ダメな幽霊……」
「さっきの人?」
「うん。向こうから先に挨拶してくる幽霊はヤバイやつだから無視しなくちゃダメなの……」
さっきの人は普通の人ではないのだろうか。だって私は霊感なんてないのだし、今までも幽霊なんか見たこともないのに。
「多分、私と居たからかも……」
霊感は感染ることもあれば、霊感がある人の近くに居る間だけ強くなる場合があるらしい。波長が合うとその傾向が強くなるそうだ。さらに彩がいうヤバイ幽霊は力が強いため見えやすいとのこと。
「だから――」
俯いていた彩は顔を上げて振り向いた。しかし、その瞬間彩の目が大きく見開かれる。あわあわと口を震わせながら、私の後ろを見つめる。そしてすぐさま目を逸らした。
「真奈美……ごめんね。本当にごめん。間に合わなかったみたい……」
「え? ちょっと彩!?」
そう言って彩は脇目も振らずに走り出した。私は彩を追いかけようと足に力を込めた瞬間、がしりと誰かに強い力で腕を掴まれる。掴まれた箇所から伝わってくるのは氷のように冷たい温度だった。
「みぃつけたぁ。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
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