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これはブラックでお得なお昼ご飯味
その日、私は同僚の沙希と共に、お昼ご飯を食べるお店を探していた。
最近は同じお店ばかりだったので、たまには他のお店にも行ってみようということで、普段は通らない方面へ足を伸ばしている。お昼だし、あまり重くないもので、なるべくならお洒落なものがいい。
「ねえミミ、あれみてー」
隣を歩いていた沙希に腕を引かれて、指をさす方へ視線をやると、そこには清潔感のあるテラス席が目を引くお店がありました。
「なになに…日替わりワンコインランチ?今日はハンバーグだって」
立看板には、美味しそうなハンバーグの写真が載っている。しかも、ワンコインというのはお財布に優しい。重くないものがよかったけど、値段からして量はなさそうだし、その辺りも問題はないかも。
「そうだね、今日はここにしよっか!」
店内に入ると、すぐに店員さんが出迎えてくれ、沙希の要望もあってテラス席に案内をしてもらった。
「日替わりランチふたつで!」
店員さんがメニューを配る前に立看板を指差しながら注文すると、沙希はいそいそとスマホでお店の外観を一枚撮影した。
「お店の雰囲気も良いし値段も安いし、これで味が良かったら最高だよね~。明日からしばらくは常連になっちゃうよ」
沙希の言葉に私は大きく頷く。隠れた名店を見つけちゃったかもしれないという期待を胸に、料理が届くまで他愛のない雑談を交わした。
十分程が経過した時、美味しそうな匂いと共にテーブルの上に料理が置かれた。とてもワンコインとは思えないくらいの品揃えに、沙希と私は顔を見合わせる。
店員さんが下がった後、スマホでお洒落な料理を撮影してからシルバーを手に取った。運命の瞬間とでもいうかのように、二人は恐る恐る料理を口に運ぶ。
「うっそ、信じらんない!」
「うん!美味しい!」
予想していた味よりも遥かに、もしかしたら今まで食べたハンバーグで一番美味しいんじゃないかっていうくらい美味しかった。これはもう間違いなく明日から常連になってしまう。
「もっとはやく見つけておきたかったなぁ~。もう他のお店いけなくない?」
「わかる!仕事終わりとかにも寄っちゃいそうな気がする~、ってヤバ…急がないと間に合わないかも」
時計を見ると、休憩が終わるまで二十分しか残っていなかった。あまりゆっくりしていると戻れなくなってしまう。明日からお昼の楽しみが一つ増えたことを喜びながら、急いで料理をお腹におさめていく。
「明日は食後のコーヒーまで楽しんでいきたいねー」
「まあ今日はお店探すのに時間かかっちゃったからね。明日は大丈夫でしょ」
食べ終わり、手鏡でメイクをチェックして、忘れ物がないかも確認してから席を立つ。店内へ繋がる扉を開けて、レジに向かう。
「お会計は別々でよろしいですか?」
「はい、別々で」
「お一人様1280円です」
「へ?」
店員さんから放たれた予想外の言葉に、思わず間抜けな返事をしてしまう。聞き間違えたかな。ランチはワンコインのはずなのに。
「あの、日替わりランチってワンコインじゃないんですか?」
「はい、当店の日替わりランチはワンコインとなっております」
ワンコインといえば、大体は500円のことを指しているんじゃなかったっけ。私の感覚がずれているのだろうか。
「1280円ってワンコインじゃないですよね?」
会話を聞いていた沙希が割って入ってくる。いつもながら、こういうことをしっかり言ってくれる沙希は頼もしい。
「はい、もちろんでございます。しかしながら、当店の日替わりランチは確かにワンコインでございます」
なんだかよくわからなくなってきた。1280円はワンコインじゃないと理解しているのに、ワンコインの日替わりランチは1280円だという。私たちが全く理解できていないことを察してくれたのか、店員さんはメニュー表を取り出して下部を指し示す。
そこには―
当店のお肉はすべて新鮮な犬肉を使用しております。
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