これはおむす〇ころりんすってんてん味

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これはおむす〇ころりんすってんてん味

 土曜日で学校が早く終わり、仲の良い鈴音(すずね)伊織(いおり)の三人で近くの神社へ遊びに行きました。神社へは普段あまり遊びにくることはなかったのですが、この日は三人共が口を揃えて久し振りに神社で遊ぼうと意見が一致しました。神社の境内はとても広く、ボール遊びや建物に入ったりしなければ出入りは自由になっていたのです。  本殿へ続く階段に三人で並んで腰を下ろし、何をして遊ぶかあれこれ考えていました。 「ねえ、目隠し鬼しよーよ!」  境内は神事の舞踊のために段差や障害物が極端に少なくなっており、目隠し鬼には最適な空間でした。何をして遊ぼうか迷っていたわたしたちは、その提案にすぐさま飛びつきます。丁度ランドセルの中に体育の授業で使っていたハンドタオルがあったので目隠しも問題ありません。  鬼を決めるために三人で輪になりました。拳を軽く突き出して、三人で同時にお約束の掛け声を発します。 「最初はぐー、じゃーんけーん……ぽん!」  鬼を決めるじゃんけんで負けたのはわたしでした。わたしは本当にじゃんけんが弱いのです。十回やれば九回は負けているのではないかと思います。どうしてそんなに弱いのかは謎ですが、物心ついた時からそうだったのでそういう星の下に生まれたのだと諦めていました。  負けたことよりも、結果が見えているじゃんけんで決めようとなったことに口を尖らせながら、タオルを巻き付けて目隠しをします。とはいっても、じゃんけん以外で決めるとなればくじ引きになり、それを用意するには少しだけ面倒でした。  準備ができたことを二人に伝えて数秒後、声が聞こえてきました。 「おーにさーんこちら、てーのなーるほうへ!」  まずは、左側からぱちぱちと力強く手を叩く音が聞こえました。 「おーにさーんこちら、てーのなーるほうへ!」  続いて、今度は右側から手を叩く音が聞こえました。どちらかといえば左側から聴こえた音が近かったので、そちらを追いかけようとしました。けれど、足を踏み出そうとしたその瞬間—— 「おーにさーんこちら、てーのなーるほうへ……」  すぐ後ろから、また手を叩く音が聞こえました。この距離ならすぐに捕まえられると確信したわたしは、真後ろへ向き両手を前に出しながら摺り足で進み始めます。 「おーにさーんこちら、てーのなーるほうへ……」  先程から目と鼻の先から声も音も聞こえるような気がするのですが、一向に距離を縮められている気がしませんでした。ただの遊びでそんなに本気で逃げることもないのにな、と思いながらもひたすら追いかけていました。  目隠しをしている以上は走ったりすることは危険なのでしたくてもできません。だからこそ、ここまで容赦なく逃げられるのならもう追いかけるのを止めてしまおうかな、と思ったその時でした。 「七美!!」  突然後ろから誰かに抱きつかれたのです。  驚いて目隠しを外すと、鈴音が青白い顔をしてわたしを見つめていました。さらにその後ろに立っていた伊織も、同じような青白い顔をしています。 「そんな顔して、二人ともどうしたの?」 「どうしたのじゃないよ!危ないでしょ!?」  一体何が危ないのか、視線を前方へ向け直すことですべてが理解できました。足元には、とても大きくて深い穴がぽっかりと口を開けていたのです。もし、あと数歩踏みだしていたらきっと穴に落ちて大怪我をしていたでしょう。しかも、目隠しをしたまま無防備に落ちれば、下手をすれば死んでいたかもしれません。そう思うと、身体の芯からくる震えが止まりませんでした。 「七美ってば、いきなり変な方へ歩き出すからびっくりしたんだよ?」 「え?だってこっちから手を叩く音がしたから……」 「ねえ——」  伊織は歯をカチカチと鳴らしながら、わたしと鈴音を見る。 「目隠し鬼しよーよって、誰が言い出したんだっけ……?」
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