これはたぶんジョンドウとジェーンドウ味

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これはたぶんジョンドウとジェーンドウ味

 卒業アルバムが卒業生全員に配られ、高校へ思いを馳せる人もいれば、別々の道を歩む友人との別れを惜しむ人もいれば、制服の第2ボタンをもらいに行く人もいたりと、クラスは卒業ムードに包まれていました。 「ねえ、ミッチー!ここになんか一言書いてよ!」 「あ、アタシもアタシも!」  朋子と茜がバタバタとやってきて、わたしの机の上に卒業アルバムを広げて置きました。わたしは快く頷いて筆箱から緑の蛍光ペンを取り出します。交換日記などでわたしたち三人には、それぞれ使う色が決まっていました。わたしが緑、朋子(ともこ)がピンク、(あかね)がオレンジです。蛍光ペンなので失敗はできないし、一発勝負だったので慎重に表紙裏のスペースへ思い浮かんだ言葉を書いていきます。 「わたしたち、ずっともだよ…っと」 「じぁーアタシはねー。さいこーの、と…あ、間違えちゃった」 「なんで私ので間違えるのよ!?ミッチーので間違えてよね…」 「いやいや、それおかしーでしょ!」  なんて皆で笑い合いながら、お互いの卒業アルバムに思い思いの言葉を書いていきました。途中で余白をハートで埋めたり段々と方向性がずれてきた頃、茜が思い出したように零しました。 「そういえばさー、アタシ集合写真のとき休んでたからさー。端っこで幽霊写真になっててホント最悪だよー」  茜が頬杖をついて深い溜め息を吐きました。卒業アルバムのクラス毎の集合写真を撮った日に、茜はインフルエンザで休んでいたのです。そのため、残念ながら顔写真が右上に載るはめになってしまいました。 「あはは…仕方ないよ」 「じゃじゃーん!」  いたずら好きな朋子は、当たり前のようにわたしたちのクラスの集合写真のページを開きました。 「ちょっ!あんたってほんと悪魔みたいだよね!」  嫌がる茜を横目に朋子は集合写真をにやにやしながら眺めています。こういう時の朋子は本当に生き生きとしています。 「いーちにーさんしーごー…」  朋子が写真を指差しながら何かを数え始めます。 「さんじゅーごーさんじゅーろくさんじゅーなな…あれ?」 「どうしたの?」 「数え間違えたかな。37人だったから」 「合ってるんじゃない?だって各クラス36人で、先生入れて37人でしょ?」 「あ、茜は右上で幽霊やってるから除外してるー」 「うざ!」  朋子と茜は幼なじみで、毎日こんな調子でした。でも仲は悪くなく、仲良しだからこその照れ隠し。一種の愛情表現のようなものです。 「いーちにーさんしーごー…」  今度はさっきよりも前のめりになって、真剣に数え始めました。 「さんじゅーろくさんじゅーななさんじゅーはち…あれー?」 「朋子は数も数えられないお子ちゃまなんでちゅねー♪」  茜が反撃にでます。これも日常茶飯事なので、わたしはそのまま成り行きを見守っていました。 「うっさいわね!じゃー茜が数えてよ」 「いいよ?アタシ、失敗しないので」  どこかで聞いたような台詞で決めたあと、茜は不敵な笑みを浮かべ悠々と数え始めました。 「さんじゅーななさんじゅーはちさんじゅー…きゅう…」 「……」  朋子と茜は無言で見つめ合います。そして、二人の視線がわたしに注がれました。言葉にされなくても、わたしに数えてみて欲しいということでしょう。茜から卒業アルバムを受け取り、間違えないようにゆっくりと数えていきます。  いーちにーさんしーごーろーくしーちはーちきゅーじゅーじゅういちじゅうにじゅうさんじゅうしじゅうごじゅうろくじゅうしちじゅうはちじゅうくにじゅうにじゅいちにじゅににじゅさんにじゅしにじゅごにじゅろくにじゅしちにじゅはちにじゅくさんじゅーさんじゅいちさんじゅにさんじゅさんさんじゅしさんじゅごさんじゅろくさんじゅしちさんじゅはちさんじゅく——  よんじゅう。
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