これはそんなんやばいじゃんあぜるばいじゃん味

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これはそんなんやばいじゃんあぜるばいじゃん味

 私には幼い頃に亡くなってしまった弟がいる。もう二十年以上も前のことだし、当時は私も幼かったため、弟のことはもう殆ど覚えていない。産まれたばかりの写真や生後半年くらいまでの写真があるくらいだった。  弟の命日。お墓参りで花と赤ちゃん用のボーロや粉ミルクを供える。弟の死因は不慮の事故だったそうだ。詳しい話は私も聞きにくかったし、両親もその話になると途端に無口になる。愛する我が子が幼くして亡くしてしまう悲しさを完全に理解できるとは言わない。でも、私も結婚して可愛い娘に恵まれた。だからそれがどれほどの辛さか、あの子を思えば理解できるつもりだ。 「あなたは、手を染めないでね」  突然、背後から声をかけられた。振り返ると、そこには中年の女性が悲しそうな表情で立っていた。どこかで見たことがあるような気がする。どこだったか。 「久し振りね。まあもっとも、あなたは覚えてないでしょうけど」  女性は言った。私の叔母だと。それを聞いて、私は思い出した。小さな頃に何度か遊んだことがある。でも、母に姉妹がいたとは聞いてないというと、疎遠になった際にそう言われたのだろうと。  どうして疎遠になったのか。  本当なら叔母を騙る怪しい人物であるのだが、幼い頃の記憶で確かに遊んだことがあるせいか、警戒心はあまり強くなかった。昔話をするだけで、怪しい話に乗らなければそれでいいと。  しかし、女性が語った内容は驚くべきものだった。  母と疎遠になった理由は、ある事件がきっかけだったそうだ。それは、弟の事故に関するもので、弟の死因は母が施したベビーマッサージによるものだという。  当時、母は雑誌で取り上げられていたというベビーマッサージに関心を持ち、毎日弟にだけマッサージを施していた。私より弟を特に可愛がっていたのだろう。異性の我が子はより可愛く感じる親もいるそうだし。 「逆よ」  私の言葉に女性は冷たくそう言い放った。訳が分からないまま、女性は話をどんどん進めていく。どうやら、母が弟に施したというベビーマッサージは、医学的根拠はないお粗末で危険なマッサージだったそうだ。 「あなたの弟にはね……重度の障がいがあったの」  まるで、不慮の事故なんかではなく、母が弟を殺したかのような言い方。確かに、重い障がいを持っている子供を育てていくことは、想像を絶するほどの辛さがあるのだろう。それでも、それを避けるために可愛い我が子を手にかけるなんてことが親としてできるのか。  それに、いくらなんでもそれは難しいのではないか。マッサージを装って殺してしまえば、警察がそれに気づくはず。母は逮捕なんかされていない。それが女性の言いがかりだということを裏付ける証拠になる。 「そうね。あなたの言う通り、妹があなたの弟を殺したという証拠はないわ。マッサージと死因の因果関係も警察は結びつけられなかった」  女性は困ったように溜め息を吐いた。言葉では何とでも言える。だから何と言おうと証拠がなければ信じられない。可愛い我が子を亡くして悲しんでいる両親や私の気持ちを弄ばれた気がして気分が悪くなった。女性を無視して帰ろうと歩き出す。 「信じるか信じないかは任せるわ。でもね?」  横を通り過ぎる瞬間、決して強くはない力で腕を掴まれた。女性と目が合う。嘘を言っているようには見えない、強い意思が秘められた眼差し。 「あなたの母親はね、ベビーマッサージを掲載していた憎むべき整体師に大金を払っているのよ。それはどうしてかしらね?」  女性の言葉に思考が停止した。慰謝料を請求するでもなく、大金を払っている。どうしてそんなことを。言葉が頭の中をぐるぐる回って鬱陶しい。 「綺麗な世界を生きてるあなたには信じられないかもしれないけど。世の中にはあるのよ。そういう血も涙もないビジネスが」 ※アゼルバイジャンは関係ありません
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