これは無差別ペロリズム味

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これは無差別ペロリズム味

 ある日、わたしの元に小包が届きました。中には一枚の紙と、ふわりと良い香りが漂う包装のお洒落な九個の石鹸が入っていました。紙を手にとって、内容を確かめます。 「なになに~……」  要約すると、町内会の抽選で四等が当たったらしい。その商品がこの"IT花園石鹸"ということらしい。  石鹸かぁ。と思ったけど意外にお高い代物らしく、この石鹸で身体を洗えばたちまちのうちにすべすべモチモチなお肌になり、部屋のクローゼットや匂いが気になる場所に置いておくと消臭、芳香剤の代わり、更には衣類の香り付けにもなる優れものということでした。  普通の石鹸より一回りくらい大きくずっしりとした重みのあるそれを手にとって、包装を剥がしてみます。 「う~ん、良い香り♪」  早速、書かれていた通りにお風呂場に一個、クローゼットに二個、あとはリラックス効果を期待して枕元に一個を置いてみます。ふわりと広がっていく良い香りに気分も良くなってきたのでした。  その夜、待ちに待ったシャワータイムで石鹸の効果を確かめてみました。結果は、謳い文句通りと言っても問題ないくらい、使った途端にすべすべでモチモチなお肌になったのです。良い香りに包まれてお肌も綺麗になるなんて、これからのシャワータイムが一番の楽しみになってしまいそうでした。  それから、三日目の夜のことです。  なんだか体調が優れず仕事を休んでしまったわたしは、夕方過ぎに汗だくの状態で目を覚ましました。汗を流すためにシャワーを浴びにお風呂場へ行き、いつも通りにあの石鹸を使って身体を洗っていました。 「あ……」  少しだけふらついた拍子に、置き場に手が当たって石鹸が落ちてしまいました。落ちる際に浴槽のふちにガンと音を立ててぶつかってへこんだところからは、なにやら黒い物体が見えています。気になって周りの石鹸を削り取り出してみると、それは手の平くらいの大きさをした石のようなものでした。しかし今は、少しでも早く横になりたかったのです。なので、石についてあまり深くは考えることはしませんでした。  そして、四日目、五日目と過ぎた頃、体調は良くなるどころか悪化の一途を辿っていました。  最初は眩暈や頭痛、食欲不振くらいだったのに、今では起き上がることもできず、食べることすらままならなくなってしまい、何か重篤な病気じゃないかと不安になってきます。流石にこれ以上は危険を感じるので、力を振り絞ってお母さんへ連絡すると、すぐに救急車を呼んでくれることになりました。  暫くすると、サイレンが聞こえてきて部屋に救助隊員が入ってきます。なにやら大きな声で話しかけてくれていますが、助けが来てくれた安心感からか、急に眠たくなってきました。もう、わたしの耳には隊員の声は聞こえず、視界も霞んできてしまい、意識がぷつりと途切れました。  次に目を覚ましたとき、わたしは病院のベッドの上にいました。体調はまだ快復はしていないようでしたが、あのときに比べたら少しだけマシな気がします。 「良かった。気がついたんですね」  不意に近くから声が聞こえたので、そちらへ顔を向けると難しい顔をした医者が立っていました。医者はわたしの体調を確かめると、難しい表情を崩さないまま問いかけてきます。 「最近、どこかへ旅行などされるか、どなたかからお土産をもらったなどありますか?」  医者の問いに、ゆっくりと記憶を辿ってみましたが最近は仕事に追われていたせいで、どこかへ出掛ける時間なんてありませんでした。周囲の人たちも同じような状況なので、お土産なんて買うことも貰うこともここ最近はありません。首を横に小さく振って答えます。 「そうですか……。おかしいですね」  首を傾げる医者に、なにがおかしいのかを視線で訴えてみました。すると、その意図を察してくれたのか、重い口を開いてくれます。 「あなた……」  そこで言葉を一旦止め、少しだけ間を置いて—— 「被ばくしていますよ」
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