これはずっ友フォーエバー味

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これはずっ友フォーエバー味

 時刻は深夜の2時。風と虫の鳴き声だけが聞こえる静かな夜。人里離れた山道にある、数十年前に起きた宿泊客惨殺事件が起きたという廃旅館へ四人でやってきていた。  懐中電灯だけを頼りに、薄暗くて埃っぽい廊下をどんどん進んでいく。歩くたびに大きく軋みをあげる床にびくびくしながら、私は隣にいる美由紀の手を強く握った。 「マジヤバイね…ユーレイがびょーん!って、でてきそーじゃね?」 「アンタの顔見たら幽霊も逃げ出すから安心しなさい」  前を行く優華と小百合はあまり怖がってはいないのか、冗談交じりに談笑している。そんな二人が頼もしくも思えるが、怖がりな私にとってはもう少し静かにして欲しいとも思う。  しばらく廊下をまっすぐに進んでいると、右手の壁に半開きの扉を見つけた。中に入る勇気はなかったので、懐中電灯で室内を照らしてみる。ビニール袋やお菓子、カップ麺のゴミが沢山床に捨てられていた。私たちより以前にここへ肝試しに訪れた人たちのものだろう。できれば、こんなところに捨てないでちゃんと持って帰って欲しい。 「未来~!ぼさっとしてると置いてくよ!」  私たちが部屋を見ている間、かなり先まで進んでいた二人から大声で呼ばれる。はっとして慌てて美由紀の手を引いて二人を追いかけた。  また歩き始めて数十秒、壁が立ち塞がり廊下の終わりを告げた。案外短かったし、それらしいことが何も起きなかったことに優華と小百合は詰まらなさそうに口を尖らせる。私としては一安心だ。 「せっかく遠くまで足を延ばしたのに歓迎もなしなんて。しけた旅館ね」 「そーだ!おもしろそーだし、ここでカラオケ大会でもやる?」  この二人の言動は毎回本当に心臓に悪いから勘弁して欲しい。そんなことわざわざ言わなくていいし、しなくていい。美由紀と苦笑いしながら、とりあえず二人を説得する。数分かけてしぶしぶだが、ようやく頷かせることができて安堵の溜め息をもらす。 「じゃあはやく帰ろ!」  二人の気が変わらないうちに、ぐいぐいと強引に背中を押して来た道を引き返していく。そして、先ほど半開きになっていた扉の前を通ったとき。真っ暗な部屋の中にぼんやりと、真っ白い顔のようなものが浮かんでいた。それを見た瞬間、私の全身に寒気が走り、気がついたときには思い切り駆け出していた。 「あ、おい!」  後ろで二人が私の名前を呼んでいるが、もう止まれなかった。少しでも、さっき見たものから離れたかった。脳裏に焼きついた白い顔が、私を追いかけてきているような気がする。かちかちと歯を鳴らしながら、振り返ることもできずに必死で出口へと走った。  旅館を飛び出して、小百合の車に到着した。しかし、鍵は小百合が持っているため中に入ることはできない。ざわざわと揺れる木々の音が、今は怖くて仕方がない。 「未来ー!」  遠くから二人の声が聞こえてきた。こちらに向かって走ってくる優華と小百合の姿を捉えると、涙がこぼれそうなくらい嬉しくなる。合流して車に入ると、心を落ち着かせながら先ほど見たあれを説明した。二人は少し興味を持ったみたいだったが、私の心境を察して優しく頭を撫でてくれる。 「あ!」  そこで、ようやく大事なことを思い出した。逃げるのに夢中で、美由紀を置いてきてしまったのだ。あんなところに一人で置き去りなんて。早く迎えに行ってあげないと。美由紀を探しにいくために車を出ようとしたところで、優華から手を掴まれる。 「おい、未来!どこに行くんだ!?」 「二人ともお願い、一緒に美由紀を探して!」  私の言葉に二人は顔を見合わせて、首を傾げている。こんなことしている間にも、美由紀は一人で寂しくて怖くて泣いてるかもしれないのに。 「ねえ、二人ともお願い!」  しかし、二人とも難しい顔をしたままその場を動こうとしない。痺れを切らして一人で探しに行こうとしたとき、私に向かって小百合が呟いた。 「美由紀って誰?」
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