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イーストウッドは背後からローレンスの細腰をつかみ、激しく腰を振っていた。 ローレンスは枕の端を力いっぱい握りながら、全身を小刻みに震えさせて、まるで泣いているかのような悲痛な声で喘いでいる。 もうかれこれ10分ほど、粗暴な突き上げでその華奢な肉体に容赦ない虐待を食らわせ続けている。 すぐに射精せぬように自分の感覚を調整しながら、イーストウッドは粘着質にローレンスを犯していた。しかしそろそろ我慢が出来なくなってきたので、射精に向けて思いきり腰を振りたくった。 絶頂に達した瞬間、力の限りその腰をローレンスの尻に押し付ける。ローレンスはもう麻痺してよくわからなくなっていたが、身体の奥深くにこの男の生ぬるい液体を撒かれたのを感じていた。 ようやく解放されぐったりと沈むローレンスは、汗だくのイーストウッドを自分のもとへ引き寄せ、倒れこんできた彼の唇にキスをした。 「毎晩会いたい」 熱に浮かされたように、潤んだ瞳でイーストウッドを見つめる。 「愛してる」 そうささやいて、彼の胸に強く抱かれた。 ベッドに横たわり【マキシマムズ】を観る。イーストウッドは背後からローレンスの腰や腿を撫でていた。 前回はマキシムの相棒のロードが犯人に撃たれところで終わった。今回は集中治療室のシーンからスタートし、意識不明のまま眠るロードのひたいに、マキシムがキスをしていた。 「この2人はゲイか?」 イーストウッドが問う。 「さあ」 「ストレートの男同士でこんなキスはしない」 「あなたもストレートなのに、僕とは……」 「お前だけだよ」 耳にキスをされ、クスクスと笑い合う。だが突如、イーストウッドが耳元で脈絡のないことをささやいた。 「Mと何か話し合っていたな。中庭の喫煙所で」 「ご覧に?」 「ちょうどフリーマンの部屋から出たところで、あの中庭に面した廊下から見えたんだ」 「その直前に起きていた乱闘騒ぎはご存じないですか?」 「乱闘騒ぎ?」 「更正プログラムを受けている囚人がバスケのことで揉めて、中庭が一時騒然となっていたようです。」 「よくあることだな」 「そのことでMから報告を受けていました。中庭を担当していた看守が、誰1人として僕に連絡をしてこなかったので」 「相変わらずひがまれているのか。出世の早い、能力のある者の宿命だ。それ以外は?」 「それ以外?」 「ずいぶん長々と話していたように見えた。Mはお前の肩に手まで置いていたな」 「……すぐに払いました。あとは、薬物依存の更正プログラムの改善についてです。僕から上層へ掛け合ってほしいいう要請です。乱闘騒ぎも、薬の減量によるものだから、と。その場は了承しておきましたが、まあ、いつものことです」 「なるほど」 イーストウッドがベッドサイドに置いていたジョイントに手を伸ばし、火をつけた。先にひと吸いしてからローレンスの口元に持っていくと、彼はその手からそのまま煙を吸い、ゆっくり吐き出した。 「この程度のもので満足できれば、みんな苦しむこともないのになあ。それ以上を求めるから苦しむのだ。薬物に依存する人間は、もともと欲望のかたまりだ」 「…………」 「そうだろう?」 「……そうです」 「タバコすら吸わないお前には、未知の欲求だろう」 「ええ」 「そうだ、そういやアルはどうだ?」 「アル?いつも通りです。……エイドリアン・ブシェミに恐らくました」 「そうか。仕事の早い男だ」 イーストウッドが満足げに笑った。 その後は楽しみにしていたマキシマムズの続きをほとんど観れぬまま、ローレンスはここ最近の疲労が一挙に押し寄せ、いつの間にか眠っていた。 朝、イーストウッドの姿は既になかったが、彼の残り香のように部屋にはマリファナの匂いが立ち込めていた。 身体がズキズキと痛む。今日は10時に、学習室にてアダム・ヘムズワースとの面談がある。予定通りにプログラムをこなせているのかを定期的に看守が確認するためだが、普段は自分がそれに関わることはない。だが今日はアダムに話をしたいと言われたので、プログラムのチェックがてら面談をすることにしたのだ。 ところで、アラームはまだ鳴っていないのだろうか。ぼんやりしたままのローレンスは、そこでようやくベッドサイドの時計を見た。 ー「いいかげん起きろライアン」 Mに揺り起こされ、ライアンが焦点の定まらない目でゆっくりと目覚めた。 「点呼だ」 「……眠たいよ」 「眠いのはみんな同じだ」 力の抜けきった上体を起こし、そのまま壁に立てかけるように寄りかからせる。水道水でタオルを濡らして、顔をぬぐってやった。 「つめたーい」 「目が覚めるだろ」 「覚めない」 「ちゃんと起きなきゃ朝の薬を飲めなくなるぞ」 「飲んだってかわらないよ。飲んだって足りないもん」 「だが飲まないよりはいい」 「いらない。寝たい」 「朝メシは?」 「いらない。寝たい」 「なら点呼が終わったら作業までは寝てればいい」 「家に帰りたい」 「あと1年頑張れば帰れる。1年なんてすぐだ」 「待てないよ。早く帰りたい」 子供のように顔を歪めて泣き出す。 「俺だって帰りたいさ」 「君はもうすぐ帰れるだろう」 「ひとつでも決まりを破ったらすぐにここに戻される」 「僕を置いてかないで」 「お前がここを出るまで、面会にも来るし電話もする。ここを出るときは、新しい家も一緒に探してやるから」 寄りかかっていたが再びずるずると崩れ落ち、ベッドに沈んでめそめそ泣いた。 「ぎゅってして」 「……ほら」 今朝のライアンはかなり調子が悪い。5歳児に退行したかのようだ。Mは寝転がってライアンの身体を抱きしめてやった。もう限界だ。M自信が限界なのではなく、ライアンが限界だ。更正プログラムを受けている者たちは、このままだと破滅する。エイドリアンもとうとう再びクスリに手を出した。それを聞いて昨夜思いきりぶん殴ったが、直後のせいかヘラヘラと面白そうに笑っていた。 「お前ら何をしている。早く扉の前に立て」 看守のニコルソンが扉から中を覗いている。 「ニコルソンさん、ちょっとライアンは無理そうです。立ち上がることも出来ないと思う」 Mがライアンを抱きしめながら言うと、ニコルソンは舌打ちしてツカツカと中に入ってきた。 「そいつから離れろ」 「………ライアン、すまないが少し待っててくれ。」 そっとライアンから身体を離し、のそりと起き上がる。するとニコルソンが「ライアン」と声をかけ、髪を掴んで起き上がらせた。 「おい!いくら囚人だからって、手荒なマネはよせ」 Mがニコルソンの右手をつかむ。しかしニコルソンは「いいから」とその手を振りほどき、胸ポケットから何かを取り出すとライアンの口に放り込んだ。 「水をくれ」 「………」 言われた通りにコップを差し出すと、ニコルソンはライアンの顔を後ろに傾けて水を飲ませた。 「あんた……」 「決して口外するな」 「しねえよ」 「ったく、まともに点呼も取れないんじゃあもう使いもんにならない。こんなのばかりになったら作業も配膳も何もかも停滞するぞ。クソッタレの理事会が何か企んでやがるに違いない。こんなゾンビを量産して、まとめてヘッドショットでも喰らわすつもりか?」 ニコルソンはどのように調達したのか、断薬用の薬物を、以前と同じ量でライアンに飲ませた。 「秘密ついでにお前にひとつ言っておく。。奴は所長のイーストウッドと秘密裏に連絡を取り合ってる。あいつが置きっぱなしにしていた携帯に、奴から着信が来ていたのを見た。……いくら副看守長とは言え、看守と理事会の人間が個人的にやり取りすることは、禁止ではないが業務上必要となることは決してない。外部との連絡はすべてこの施設内のパソコンか固定電話を介するからな。それをわざわざ所内にいながら携帯でやり取りするなんて、記録に残したくない会話をしているとしか考えられん」 ニコルソンの思わぬ告発に、ミネは息を飲んだ。 「……なぜこの俺にそんな話を?」 「こないだ中庭でお前とローレンスで何かを話していただろう。その様子をイーストウッドがじっと窓から眺めてた。俺はそこを通りがかっただけだが、なぜかいやに気になった。ただそれだけだ」 「………」 「ライアン起きれるか?……すぐには効かないか……。仕方ない」 ニコルソンはライアン抜きでA棟の点呼を行い、5分遅れで囚人たちを食堂に向かわせた。 ライアンはそのまま誰もいないA棟でしばらく眠らせることにした。
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