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「暴動は何がどうなるか分からん。引き起こした奴の思惑通りにいかないこともある。どさくさ紛れに火でもつけられたら、独房に取り残されたままの奴らが逃げ遅れる。ヨハンソンのときがそうだった。保護房にいた奴が煙を吸ったか何だかで、死ななかったが重傷を負った」
Mがこの先何を言わんとするか、もう分かっている。皆ほぼ確信を得ているのだ。
「フリーマンが暴動を指揮する可能性があると捉えてもいいんだな」
最大限に声を潜めブラッドリーが言った。Mは目を伏せたままだ。
「部屋に戻れ。消灯だ。」
ニコルソンが就寝前の点呼にやって来た。3人は立ち上がり、Mはライアンの勉強道具を手に彼の部屋に向かった。
「マット、消灯だ。ライアンは?」
「寝たよ」
ベッドの脇に座っていたマシューが、ライアンに握られていた手をそっと離した。
「ジュードが戻ってきたらすぐに"ライアン係"に任命しよう。ぐずったときになだめるのも、寝かしつけるのも、朝起こすのも彼の役目だ。なんせクロエのパパなんだから」
「ライアンは何でジュードを?今までも何人かクロエの親父になってたけど、かと言ってセックスをした相手に執心したことないだろ。基本的には俺たちにしかなつかなかった。それなのに、ジュードに対してわざわざ会いたいなどと口にしたのは意外だ」
「たぶん彼はとても優しいんだよ。……それに、ライアンとジュードはセックスはしてない。ジュードは男は抱けないらしい」
「何だ、そうだったのか。じゃあなぜ親父に?」
「ジュードはクロエのことでライアンを馬鹿にした看守にガムを吐いただろ。カラダ目当てでもなく、彼もまたライアンと真摯に接していたんだ。だからライアンはジュードに惚れて、優しい彼をクロエのパパにしたくなった。もう誰ともセックスしないのも、ジュードだけだと決めてるかららしい。寝る前に、だいたいそんなようなことを言ってた。僕も初めて聞いたよ」
「………そうか」
ぐっすりと眠るライアンを見つめ、勉強道具をそっと机に置いた。
「マット、フリーマンは……」
「明日にしよう。もう消灯だ」
「………ああ」
「おやすみ」
マシューが自分の部屋に戻っていく。一部屋ずつ中を確認していたニコルソンが、腕を組みながら「あとはお前だけだぞ」と言ってMの部屋の前に立っていた。そしてMが中に入る瞬間に、ニコルソンの無線を持った方の手から一瞬で治療薬を受け取った。明日のライアンの分であり、もちろん無許可の代物である。
ニコルソンは無線で「A-1棟異常ナシ」と告げ、広間から出て行った。
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