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夜になると、大きな男がベッドにやって来る。
すでに下着など履いていなくて、丸出しにしたペニスを勃起させている。
そんな男がニヤニヤと口元をゆがませて、ベッドで眠る自分の上にのしかかってくるのだ。
そいつは母の何人目かの男だが、母よりも自分の肉体を好み、夜な夜なこうして酒臭い息でこの身体を舐めまわす。大きな手で押さえつけられ、身動きはまったく取れない。粘着質にこの肌や乳や粘膜を舌で味わい、満足したらいよいよ股を開かれる。
そのあとは地獄だ。あまりの苦痛に途中で吐いても、男は腰の動きを止めない。泣きわめく前に、すでにシーツで口元を押さえられている。母がこの男を連れてきてから、もう3ヶ月ほどこんな日が続いている。
以前の男は母と自分を殴って逮捕されたが、その前の男にも、この男と同じようなことをされていた。慣れることはない。毎回同じ苦しみが繰り返され、朝になると身体が痛くて起き上がれない。殺されるかもしれない恐怖と、死ぬかもしれない苦しみの中に生きている。
だからアランは決断した。男の銃を部屋から盗み、"その晩"まで枕の裏に隠していた。
アランは大きな男が嫌いだ。
のしかかってこられたら気絶するかもしれない。あるいは手元に拳銃があったのなら、迷いなく即座に撃ち殺すだろう。あの晩のように血まみれになり、警察が来るまで血だまりの中でめそめそとうずくまって泣くのだろう。
そっと目を開け、いつまでもいつまでも付きまとう悪夢にウンザリしつつ、よみがえる絶望感に苛まれる。部屋の電気はついたまま。帰ってきて、疲れてベッドに横たわったらそのまま寝入ってしまったのだ。時刻は深夜2時。日付をまたぐ前には帰ってきたから、まだそれほど経ってはいない。
ローレンスはそっと起き上がり、目元の涙をぬぐった。今夜は久しぶりに「クロエ」と食事に行き、それなりに楽しい気分で帰ってきたつもりだが、普段は見られない彼女の笑顔を見るとやはりどうしてもこの悪夢を見てしまうようだ。
しかし身も心もボロボロにされた自分を救い、ここまで導いてくれたのは彼女だ。
乗り越えなくてはならないし、乗り越えて生きているつもりだ。それでも夢はどうにもならない。
ライアンは強い男だ。正気に戻っていても、過去のことでめそめそ泣いたりしない。薬が切れていても、ただ純粋に腹の中のクロエを気にかける優しい人間である。
アダム・ヘムズワースに握られた手の感触がまだ残っている。すっぽりと包み込まれ、子どもの頃の恐怖がよみがえりそうになった。しかしアレクのときよりはマシだ。あのときニコルソンに引き剥がされなかったら、アレクに何をしていたかわからない。
アダムはMにあの面談の内容を報告したはずだ。イーストウッドとの関係も「不適切なもの」として伝えられているだろう。だがその通りだから、弁解の余地はない。
依存者はクスリを手に入れるためなら、黒き面会者を通して何が何でも外界から金を手に入れる。そしてあの刑務所を麻薬の市場として利用し、プッシャーとして鼻の利く者には将来を約束してやる。
また、ジュードのような違法風俗店の経営者に共同経営を持ちかけ、女子刑務所から出たある程度の容貌の人間をそこに送り込み、ゆくゆくは店を乗っ取って丸ごと利益を得る。
ジュード以外にも手を組まされている経営者は大勢いるそうだ。今回は税務署にタレ込まれたせいでジュードの逮捕に至ったが、彼はさっさと捕まったことで組織の手から逃れられた。
理事会とは、表向きは社会貢献を尊重した組織であるがゆえ、市や州の公共の施設とも密接につながっている。また福祉事業の一環として、出所した者たちのためにそれらの施設での就労の斡旋もしている。
アルやロバートのような者をそういった場所で働かせるというのだ。つまり、ゆくゆくは街ぐるみで市場を拡大させるのが夢であり目標なのだという。そのためにまずは街の政治の実権を握ることを目指している。それはもちろん表向きの政治の話ではない。この最下層にほど近い刑務所が置かれた薄汚い街の"裏社会"を牛耳るための実権である。
すべてこのベッドの上で、イーストウッドがマリファナでぼんやりとなりながら聞かせてくれたことだ。セックスをしたあとならば、彼はなお饒舌になる。
アダム・ヘムズワースに話したことはすべて建前だ。これは、理事会ぐるみで矯正施設を"隠れたマーケット"にするための減薬だ。
良くも悪くも、男には野心というものがそなわっている。
ローレンスはいつもその戯言に瞳を輝かせるフリをながら、彼の横でそれを聞いていた。裸のまま彼に抱きつき、あなたは素敵だと熱に浮かされたようにうっとりしながら耳元でささやく。セックスとマリファナで溶けきった彼の脳には、それで充分なのだ。
ローレンスは、シャワーを浴びてから洗面所の鏡でまじまじと自分の顔を眺めた。我ながら疲れ切っているのがよくわかる顔だ。
アダムの手は確かに怖かったが、あの温かさはクロエと似ていた。……彼ならば、自分のことを優しく抱くのだろうか。そんな不埒なことを無意識にふと考えてしまい、いけないと振り払った。
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