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俺は他の経営者とは違って、だいぶ長い期間、売春業に携わってきてな。なんせ祖父の代からやってたんだ。それも母親は親父の店で働いてた売春婦だ。生まれたときから、乳を丸出しにした女がうろつく小屋で暮らしていた。 祖父は俺が生まれる前に死んでて、親父は俺が高校を出るころに死んでな。 そのころに一旦店も畳んで、俺は大学まできちっと出て普通に会社勤めをしていたこともあった。 それでもある程度の金が貯まってから、結局また親父のように「店」を開いたんだ。 俺は子供の頃からずっと同じ考えを持っていた。売春は、行き場のない女たちの救済措置だ。きれいでもきれいじゃなくても、とにかく悲運というのか、どうにもならない不幸に好かれる女ってのはたくさんいる。 だいたいが男絡みだが、そもそもの生まれが悪い奴らが多かった。それゆえ頭の弱いのも多いし、貧乏クジをわざわざ自分で選んで引いてるかのような奴ばっかりでな。だが本人のせいじゃないことばっかりで、だいたいは環境が悪いんだ。根っから堕落してるどうしようもない奴ももちろんいたけど、だがそんなのは世界中どこにでもいるだろ。 俺は斡旋を持ちかけてきた組織が理事会の人間だとはもちろん知らなかった。だが人手不足もあったので、指名手配犯とかじゃなければ雇ってもいいと言った。 そしたら「前科があって、更生はしたが社会復帰が難しい女たちだ」と言われ、それなら、と奴らが流してくる女たちを受け入れた。 実際その通りで、前科はあるが一応IDは揃ってて特に問題のない女たちだった。たまーに売りもんにならないようなのも紛れ込んでたが、そういうのはせめて愛嬌で売れるように俺なりに"プロデュース"してやったりもした。 それであるとき、女たちはどうやらみんなからやってきてるらしいのを知って、斡旋業者が刑務所絡みのやつだと気がつき始めた。 だが俺はそんなことはどうでもよくて、とりあえず前科者のワケありの女たちに金を稼がせることしか考えてなかった。親父の店にもそういうのがたくさんいたし、親父もそういう奴らの面倒をよく見ていたからな。 それで女たちもある程度余裕ができてからは、低賃金でもウエイトレスとかのフツーの仕事に就き始めるようになった。昔のように貧しくてみじめな思いをしていたらまたバカな考えを起こすってもんだが、余裕があるせいかみんな少しずつちゃんとした社会に復帰していった。 パン屋のレジ係とか、清掃員とか、客をたくさんつかんでた奴の中には、パブの女主人になったのもいる。俺はそれを純粋に嬉しく思っていた。だから斡旋してくるのが理事会の奴らだとわかってからも、しばらく手を組んでやってきたんだ。 奴らは純粋に女たちが稼いだ金の半分を俺と折半して受け取ることが目的だったが、まあ、あのままズルズル付き合ってたら店も乗っ取られてたんだろうな。 だが俺が捕まってから店は営業停止状態だし、在籍してた奴らには本当に心から申し訳なく思ってる。行き場のない奴らはどこに行ったか気になって、電話を介して仲間たちにいろいろ聞いたりしてな。 当然理事会に関する会話も起こるから、フリーマンは常に記録された通話の内容を聞いていて、それで察したのかもしれないな。それより、やっぱり何人か行方知れずになったのもいて、俺はその女どものことが気がかりでならない。ここにいる限りはどうにもできないし、出てからもマークされるからもう二度と地元では同じ商売はやれない。 ここに来たばかりの頃……だから3カ月くらい前にも、ライアンがまともなときにこの話をしたんだ。何だか心が折れちまって、誰かにぶちまけたくなってた。まともなときのライアンは、ガキのくせにすげえしっかりしてるだろ。だから虫みたいに吸い寄せられて、すがりたくなったんだ。 そしたらライアンは、1度でも地獄を知った人間は強いから大丈夫だ、と言って励ましてくれた。女たちは弱くない、俺がいなくてもよそでたくましく生きてるに違いない、と。俺もライアンがここに来た理由を知っていたから、そんな奴がこうして言うんだから間違いないと思って、それでどうにか少しは立ち直れた。 ……こんなことを長々と話して正当化したいわけじゃないが、とにかく俺はてめえの金儲けのためだけに女を使ってたんじゃない。違法行為に手を染めさせてたが、そうでなけりゃ社会で生きてけない奴がたくさんいるんだ。 それを思うと、俺とはまったく無関係のアルやロバートのことすら、気がかりだ。行き場がないというのは、人間にとって何よりも恐るべきことだ。死ぬのと同じだからな。そこにつけ込む奴は、囚人の俺が言うのもなんだが、やっぱり悪党だと思う。 悪いことをした結果行き場を失くすというのは自業自得だ。だが生まれや育ちに恵まれなかった奴にまで同じことは言えない。根っからの悪人と、環境で作られた悪人は違う。お前らがどっちの人間かは知らねえしどうでもいいが、ともかく俺は確信犯的に斡旋を受け入れてたということだけは分かってくれ。 「それから」 ジュードは少し悩んだが、続けた。 「"クロエの親父"今は俺で、俺の前はエイドリアンだったそうだな。だがエイドリアンと俺のあいだに親父がいる。ライアンは決して明かさないが、俺には明かしてくれた。そのもうひとりとは、アルだ。奴もライアンにはなついてるんだな。だが何度言ってもあんまりにも密輸をしまくるもんだから、いつしか信用しなくなったと言っていた。……それでも、クソガキのアルにはまだが残されているというわけだ。ライアンは薬が切れたらあんなだけど、それでもアルとの関係を誰にも明かしてない。……バカに見えても、案外いろいろ知ってて黙ってるのかもな。アルのことや、それにつながる理事会のことを」
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