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ストロングスタイル
ユウノは小悪魔っぽく笑いながら、アカリの肩に手を回す。
「そういうこと! みんなを騙すなら身内の幹事から、ってこと。これは私ひとりで企画したサプライズなのでした!」
「ユウノらしいと言うか、何と言うか……」
ナホも呆れたような顔をしながらも、どこか安堵したように笑った。
ユウノが思い出したように目を丸くして、慌てた様子でマイクを握った。
「あのー! 因みにだけど、私がこの学年の50人と付き合ったっていうのも嘘だからねー! サプライズだよ、サプライズ!」
これには男子たちがドッと湧いた。
「なんだ、そうだったのか! 俺、めっちゃみんなが羨ましかったんだけど!」
「俺も俺も! 俺だけ付き合ったことないのかと……」
そこかしこで男子たちが顔を見合わせて笑いあった。女子たちも内心ではどう思っていたのか分からないが、身近で安堵する男子に「そんなのはじめから嘘に決まってるじゃん」などと誂った。
気付けば会場には一体感が溢れ、誰が誰に話しかけてもいいような、不思議な空間と化していた。その様子を眺めながらユウノは満足げに微笑んだ。そしてマイクを片手に拳を突き上げた。
「どうだみんな! 会場はひとつになってるかなーッ!?」
「「「おーう!」」」
「でしょ? この強制一体感、これが幹事の私からみんなへ、ストロングスタイルなサプライズプレゼントだあ!」
「「「うおー! ユ・ウ・ノ! ユ・ウ・ノ!」」」
「みんな、夜は長いよ! ここからが本当の同級会だ! 盛り上がっていこうねー!」
会場からは大きな歓声と拍手が巻き起こった。
全員がユウノを囲んでコールする中、その輪の外側で、ナホは気絶したセイシロウの頬をペシペシと叩いた。アカリがそれに気付いて歩み寄る。
「セイシロウくん、起こすの?」
「……うん。なんか勘違いで怒っちゃったみたいだから、その……一応、謝ろうかな、みたいな……」
「えらい。可愛いよ、ナホ」
「そ、そんなんじゃないし! てか早く起きなさいよ! ほら、セイシロウ! 起きて!」
「……うう」
「あ、セイシロウ! 気がついた?」
「あれ……俺なんで寝てたんだろう……」
「セイシロウ、ごめん、私――」
その時、マイク越しにユウノの声が響いた。
「因みにー! 50人と付き合ったのは嘘だけど、セイシロウとは本当に付き合ってたよー!」
「――フンッ!」
「ぁがッ」
ナホの拳がセイシロウの顎にめり込んだ。セイシロウは再び意識を失った。
「……私、嘘は嫌い。次起きたら余罪も掘らないとね」
そう発すると、ナホは傍らの瓶ビールを手に取り、ラッパを吹くようにしてグイグイと飲み始めた。
「……今日一番のストロングスタイルは、ナホかもね……」
アカリは眉をハの字に歪めながら笑った。そしてカクテルの入ったグラスをナホの瓶ビールにカチンと当てて、乾杯をした。
「ナホの取り調べ、私も付き合うよ」
「長い夜になりそうだね」
明日川中学校、第56期生同級会の夜は更けていくのだった――。
■おわり■
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