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降り続く雪を頭に被りつつ、籠一杯に獲れた魚を縄に通して纏める。
最後に空になった罠を再び仕掛け、段々と暗くなる空に帰路を急いだ。
この山では熊も出るし道も険しく、日暮れ後の出歩きは危険だ。
姉達の教えで多少は身を守る術を心得ているが熊相手では逃げ道を確保するのが精一杯。
遭遇しないのが一番と駆け足で朽ちかけた石階段を駆け上がった。
「…たぁ〜すけて〜!」
不意に聞こえた悲鳴に谷間に目を向け、狛吉は目を剥いた。
荒れた竹林の中、崖から足を滑らせたのか雪の上で屈強そうな男の足だけがバタバタと動いている。
どうやら降り積もった雪に上半身が嵌って抜け出せないらしい。
急いで崖から滑り降りた狛吉は、腰に巻いていた縄を男の足に括り、近場の若竹を介してスポンと引き抜いた。
「…に、兄ちゃん、大丈夫…?」
「死ぬかと思った…坊主、助かった…」
互いに息を乱し、四つん這いで頑丈な岩の上に避難。
幸い新しい雪の上に落ちたお陰で擦り傷と捻挫程度で済んだ。
少しばかり足首が腫れているが冷やして暫く休めば、自力で歩けそうである。
「俺、佐一。飛脚を生業にしていてな。町に戻る途中で足滑らせちまってな。いやぁ急がば回れとは言うが、横着なんかするもんじゃねぇなぁ…!」
あっけらかんと笑い飛ばし、佐一と名乗った男は持っていた商売道具の担ぎ棒を杖代わりに腰を上げた。
「狛吉!」
轟いた声にハッと振り返る。
血相を変えて獣道を駆け下りてきたのは、提灯を手にした瑞雲であった。
ドタバタやっている間にすっかり日が沈み、心配して迎えに来てくれたらしい。
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