囲炉裏端の与太話

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『おや、客人か?』  その声と共にガラリと戸口が開く。  雪のように白い九尾の姿に、子供達は出迎えの挨拶を告げ、佐一は目を丸くした。 「こりゃまた…いやいや、ありがたや〜。白のお狐様までお目に掛かれるとは…」  円座の上、深々と頭を下げる姿に子供達と瑞雲は苦笑い。  驚くよりも崇めるとは最早、神仏の扱いである。 『何じゃこやつ?』  囲炉裏に近寄りつつも、雪華は何なんだと言いたげに瑞雲に目配せ。  そんな視線に決まったように笑った彼は、まあまあと白い毛並みを撫でた。 「飛脚の佐一殿だ。東の竹林で足を滑らせたそうでな。狛吉が助けた」 『東?またも結界が綻びたか…?』  不可解とばかりに雪華は呟き、疑念の眼差しで佐一に鼻を寄せる。  そして、ほんの僅かに香った怪しげな匂いに雪華は訝しげに首を竦めた。 「ここには雪華様の結界が張られていて、普通の人は入って来られないんだ」  何の気無しに狛吉は告げ、佐一は成程と顎を撫でつつ頷く。  そんな折だった。 「あ、そういや…、西の農村跡を通った時、坊さん連れた大層身なりの良い男に会いましてね。そのお人に近道としてこの山の道を教えてもらったんですわ。けどまあ、結局この有り様で…。折角、坊さんから貰った道中の安全祈願の御札も足滑らした時に落としちまったみたいだし…」  腫れた足を摩りつつ、佐一は道中での些細な出来事を思い出して苦笑い。  その話を聞いて雪華は無論、瑞雲ももしやと勘が働いた。 「佐一殿、その御仁の人相は覚えておられるか?」 「そうだなぁ。髷の感じからお武家の方だとは。丁度、和尚さんくらいの年頃だと思いますぜ?あ、そうだ!観猛(みたけ)藩の紋付きを着てましたね。随分遠い所からいらっしゃったなぁ…と」
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