第8話

1/1
前へ
/8ページ
次へ

第8話

不思議と、事件が解決したころには、嵐も収まった。水樹たちは甲板に出て、理人・水樹・陽希の順で並び、穏やかになった海を見詰めた。 港までは、まだ何日かかかりそうである。 「今回も水樹は名推理でしたね」 「うん、本当。水樹ちゃんのお陰」 理人が言っても、陽希が言っても、水樹は何も言葉を発さなかった。 遠く水平線に沈む夕陽は、まるで燃えさかる炎のように赤く染まっていた。空はオレンジとピンクが混じり合っている。 「これで『探偵社アネモネ』の名も売れちゃうと良いなぁ」 陽希が頭の後で手を組んでのんびりと宣う。しかし、矢張り水樹はじっと黙っている。 空の色は、やがて深い青、黒へと変わっていった。波は静かに揺れ動きながら、月明かりを浴びて白く輝いている。 そろそろ部屋に戻りましょうか、の「そ」を言いかけたところで、やっと、水樹が口を開いた。 「夕間暮れ……」 あの美しい夕陽が、疲れた心を癒したのであれば良かったと、理人は思ったのだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加