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その朝、ラトゥフを訪ねてきたのは、ダーインの遺産で斥候を担当しているアリだった。
アリは、本当は "アリス" と言う少女なのだが、未だ未成年の少女が荒くれ者も集まる冒険者の中で仕事をするのは、色々と身の危険が伴うために、表向きは "少年" ということになっている。
彼女は、メンラットの指示でラトゥフを呼び出しに来ただけだったが。
しかし、使者を寄越してまで呼び出しをされたことなど、今まで一度も無い。
驚いたラトゥフは、手早く身支度を整えて、アリと共にオルビスの街へと駆けつけた。
「呼び出しなんかして、済まなかったな」
「それより、どうしたんだ?」
「王都から組合に使者が来て、とりあえず戦力になる冒険者を全て、王都に傭兵として寄越してくれと言われたんだ」
王国から騎士爵を賜っているメンラットは、この呼び出し案件を断るのは難しい。
だが、メンラット個人のみならず "戦力の全て" を集めようとしているのは、どういうことだろうか?
「出来れば、キミには街に残ってもらいたい」
「キミは行くだろう? ダーインの遺産のメンバーは?」
「メンバーは、仕方がない。だが他の冒険者は、志願者しか連れて行くつもりはないんだ」
ソルタニト王国は、周辺からは "魔導王国" と呼ばれている。
現王はフィルギア・ソルティオス・ソルタニトと言うが、ソルタニトの王はこの名前の者しか存在しない。
一部の噂では、ソルタニトの王は不老不死を得たと言われているが、真偽は定かではなく、王家の一族がそっくりな顔で名を継いでいるのか、本当に一人しか存在しないのか、知っているのは貴族のみ……それも一部の者に限られると言う。
ソルタニト王国は、魔導士を優遇している。
いや、建国当時は魔導士以外をヒトと見なさないに近い扱いだった。
だが、それでは国が立ち行かなくなった。
今でこそ魔導士の数は増え、王都に暮らす貴族は全て魔導士となっているが、建国当時は人材が圧倒的に少なかったからだ。
更に、魔導士は内向的な性格の者の方が多く、国政を動かせるような人物は存在しなかった。
流石にそれでは困る……と思ったフィルギア王は、まずは国政を動かせる者を職に付け、更にその者たちに「早急に、魔力を完全に操れるようになるように」との指示を出した。
つまり、政治の出来る魔導士を強制的に作ったのだ。
魔導士として優秀な者に報奨を出し、国政でどれほどの結果を出そうと魔導士として優秀でなければ認めなかった。
そのことで不満を抱きソルタニトを離れた者もいたが、逆に魔導士で更に国政を動かせることが出来れば、伯爵や侯爵と言った高い爵位を賜ることも出来た。
国の基盤が出来上がる頃には、王城に上がれるのは魔導士としてと、政治家としての、両方の能力を満たせる者になっていた。
とはいえ、国民全てが魔導士という訳にはいかない。
魔力は誰もが持っているが、魔導士になるには器量や天賦の才なども大きく関わる。
貴族となった者はこぞって子供に魔導士教育を施したが、落ちこぼれる者も当然存在した。
故に、国は魔導士を優遇し、魔導士でなければ出世を望めないが、魔導士でなくとも国民として受け入れる方針が打ち出されたのだ。
メンラットはそんな中にあって、戦士であるにも関わらず騎士爵を賜っている。
だが、功績が称賛されたからと言って、メンラットが魔導王国で歓迎されるかと言えば、魔導士ではない身でそれはあり得ない。
そんな王国の、特に魔導士至上な空気が濃厚な王都に、わざわざ冒険者風情を呼び寄せている王国の意図が、理解し難い……というのが、メンラットとラトゥフの共通の見解だった。
「僕も、志願させて欲しい」
「いや、それはダメだ。この召集はどうにもキナ臭い。なにかあった時、街にキミがいてくれれば……」
「なにかあった時、むしろ僕はそっちにいた方が便利だろう?」
言葉を被せるようにして言い張るラトゥフに、メンラットは少し驚いている様子だった。
正直に言うと、自分のその態度には、ラトゥフの方がより驚いていた。
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