2-2

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 その朝、ラトゥフを訪ねてきたのは、ダーインの遺産(ダインスレイフ)斥候(シュリィジ)を担当しているアリだった。  アリは、本当は "アリス" と言う少女なのだが、未だ未成年の少女が荒くれ者も集まる冒険者(アドベンチャー)の中で仕事をするのは、色々と身の危険が伴うために、表向きは "少年" ということになっている。  彼女は、メンラットの指示でラトゥフを呼び出しに来ただけだったが。  しかし、使者を寄越してまで呼び出しをされたことなど、今まで一度も無い。  驚いたラトゥフは、手早く身支度を整えて、アリと共にオルビスの街へと駆けつけた。 「呼び出しなんかして、済まなかったな」 「それより、どうしたんだ?」 「王都から組合(ギルド)に使者が来て、とりあえず戦力になる冒険者(アドベンチャー)を全て、王都に傭兵として寄越してくれと言われたんだ」  王国から騎士爵(ロウ)を賜っているメンラットは、この呼び出し案件を断るのは難しい。  だが、メンラット個人のみならず "戦力の全て" を集めようとしているのは、どういうことだろうか? 「出来れば、キミには街に残ってもらいたい」 「キミは行くだろう? ダーインの遺産(ダインスレイフ)のメンバーは?」 「メンバーは、仕方がない。だが他の冒険者(アドベンチャー)は、志願者しか連れて行くつもりはないんだ」  ソルタニト王国は、周辺からは "魔導(セイズ)王国" と呼ばれている。  現王はフィルギア・ソルティオス・ソルタニトと言うが、ソルタニトの王はこの名前の(もの)しか存在しない。  一部の噂では、ソルタニトの王は不老不死を得たと言われているが、真偽は定かではなく、王家の一族がそっくりな顔で名を継いでいるのか、本当に一人しか存在しないのか、知っているのは貴族のみ……それも一部の(もの)に限られると言う。  ソルタニト王国は、魔導士(セイドラー)を優遇している。  いや、建国当時は魔導士(セイドラー)以外をヒトと見なさないに近い扱いだった。  だが、それでは国が立ち行かなくなった。  今でこそ魔導士(セイドラー)の数は増え、王都に暮らす貴族は全て魔導士(セイドラー)となっているが、建国当時は人材が圧倒的に少なかったからだ。  更に、魔導士(セイドラー)は内向的な性格の(もの)(ほう)が多く、国政を動かせるような人物は存在しなかった。  流石にそれでは困る……と思ったフィルギア王は、まずは国政を動かせる(もの)を職に付け、更にその(もの)たちに「早急に、魔力(ガルドル)を完全に操れるようになるように」との指示を出した。  つまり、政治の出来る魔導士(セイドラー)を強制的に作ったのだ。  魔導士(セイドラー)として優秀な(もの)に報奨を出し、国政でどれほどの結果を出そうと魔導士(セイドラー)として優秀でなければ認めなかった。  そのことで不満を抱きソルタニトを離れた(もの)もいたが、逆に魔導士(セイドラー)で更に国政を動かせることが出来れば、伯爵や侯爵と言った高い爵位を賜ることも出来た。  国の基盤が出来上がる頃には、王城に上がれるのは魔導士(セイドラー)としてと、政治家としての、両方の能力を満たせる(もの)になっていた。  とはいえ、国民全てが魔導士(セイドラー)という(わけ)にはいかない。  魔力(ガルドル)(だれ)もが持っているが、魔導士(セイドラー)になるには器量や天賦の才なども大きく関わる。  貴族となった(もの)はこぞって子供に魔導士(セイドラー)教育を施したが、落ちこぼれる(もの)も当然存在した。  故に、国は魔導士(セイドラー)を優遇し、魔導士(セイドラー)でなければ出世を望めないが、魔導士(セイドラー)でなくとも国民として受け入れる方針が打ち出されたのだ。  メンラットはそんな中にあって、戦士(フェディン)であるにも関わらず騎士爵(ロウ)を賜っている。  だが、功績が称賛されたからと言って、メンラットが魔導(セイズ)王国で歓迎されるかと言えば、魔導士(セイドラー)ではない身でそれはあり得ない。  そんな王国の、特に魔導士(セイドラー)至上な空気が濃厚な王都に、わざわざ冒険者(アドベンチャー)風情を呼び寄せている王国の意図が、理解し難い……というのが、メンラットとラトゥフの共通の見解だった。 「僕も、志願させて欲しい」 「いや、それはダメだ。この召集はどうにもキナ臭い。なにかあった時、街にキミがいてくれれば……」 「なにかあった時、むしろ僕はそっちにいた(ほう)が便利だろう?」  言葉を被せるようにして言い張るラトゥフに、メンラットは少し驚いている様子だった。  正直に言うと、自分のその態度には、ラトゥフの(ほう)がより驚いていた。
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