満面の笑み

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そして、誰も話さない沈黙が再びやってきた。どうやら誰も異論がないらしい。 その妙な静けさを打ち破ったのは他ならぬ春月だ。 「そんなの私は聞いてないですよ!!」 霞は不思議そうに首をかしげた。 「あれ、霞さん?あなたあの時、春月様と朔の二人分も合わせて頑張りますって言いましたよね?」 皆の視線がいっせいに春月に向く。 「言ってない。そんなこと一言も言ってない!!」 確かに頭領の仕事は代理で行うつもりでいたが、本当に頭領を座を継ぐとは聞いてない。 「でも、春月様の仕事をなさるということはつまり頭領になるということですよね」 再び視線は朧に戻る。しかし、朧はなんてことはないとばかりに平気な顔だ。 「私より朧さんのほうがここに長くいるんだから、頭領は朧さんがやるべきでしょう?皆さんも本当はそう思っているのでは?」 誰も何も言わない。春月は勝ちを勝ちを確信した。このままいけば、順当に朧が次の頭領だ。 「わかりました。そこまで言うなら私がやりましょう」 仕方がないとばかりに朧は言う。よかった。これで丸く収まる。 ちりぺっぺは落ち着いたようで、耳も少し寝ている。霞に至っては話に興味がなさすぎて、いつの間にか意識さえ無い。 これで全ての決着はついた。皆がそう思った。実を言うとここにいる全員。霞と朧のどちらが頭領になっても問題ないと考えていたからだ。 人望も腕前も、二人はほとんど変わらない。どちらも優秀で、それを言い換えればどちらでもいいとも言たのだ。 しかし、本人がやると言ったのだからこれで次の頭領は朧だろう。春月は安心する。しかし、物事はそう上手くはいかなかった。 「私が頭領になったので、頭領の権限で霞さんを次の頭領に任命します」 春月は自分の耳を疑った。 「どういうことだ?!朧が頭領になるんじゃないのか?!」 確かにそう聞いたはずなのに、気づいたら自分がやることになっている。 「ですから、私は一度頭領を引き受けたのです。そして今、それを霞さんに引き継ぎました。だから今から霞さんが頭領です。」 もう一度聞いても何もわからない。こんな理屈が通っていいのだろうか。春月は頭が混乱してきた。 「本当にこんな選び方でいいのか?」 春月が尋ねても皆、顔を見合わせるばかりで何も言わない。元から春月の一門は自己主張が少ない、ある意味大人しい人間の集まりではあった。 「ほら霞さん、皆さんも問題ないそうですよ。大人しく頭領になりなさい」 朧はどうしても霞を頭領に据えたいようだ。それよりむしろ、自分がやりたくないだけなのかもしれない。 そうして、春月はまた頭領に選ばれることとなった。
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