満面の笑み

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ベッベッベッと激しい音をたてて、ちりぺっぺは犬用プリンをすすりなめる。 「どうですかちりぺっぺさん。美味しいですか?」 声をかけられたちりぺっぺは少しだけ顔を上げ、ゲフッと返事をした。 どうやら満足したようだ。自分のプリンを食べ終わると、そそくさと春月の膝の上に乗り込む。 広間にはいくつかの折り畳みローテーブルが設置され、それぞれの中央には菓子かごが置かれている。 その中にはみかんや、個包装のクッキー、おせんべいなどがたくさん盛られていた。 「さて、みなさんお集まりいただけましたか?」 朧は広間を見渡す。門下生たち、その他関係者含め31名。自分を含めると、32名。 現在入院中の朔と死んでしまった春月を除けば、全員揃ったようだ。 「揃ったようですので、話し始めます」 ざわめきを払いのけるように、朧は軽く咳払いをする。そして、いつもより少し厳かな口調で話し始めた。 「みなさん、頭領の春月様がお亡くなりになられたのはすでにご存知ですよね」 室内はしんとした空気に包まれる。身近な人物の突然の不幸なのだ。 こうなるのはむしろ当然のことだろう。 春月は少しほっとした。 ごく最近、どこかの誰かが満面の笑みで卓上ベルを連打しているのを見たような気がしたからである。 「たいへん残念なことです。皆様もさぞかし悲しんでおられることかと存じます」 朧はすました顔をしている。きっとあれは幻覚だったのたのだろう。 きっと、彼も心の奥底では悲しんでいるに違いない。朧もそこまで非常識な人間ではないはず。 しかし、春月の淡い期待は当然のごとく裏切られることとなる。 「しかし、悲しんでいる時間はありません。我々は早々に次の頭領を決めなければならないのです」 元気よく宣言する声。人々の間に、ざわめきが戻った。 「皆さん、いいですか?我々は二ヶ月後に各一門の頭領だけが集まる、とっても重要な会議を控えているのです。それまでに頭領を再選しなければなりません」 朧は静かな笑顔のまま、その場の全員の顔をながめはじめる。 霞は朧の目が笑っていないことにいち早く気づいた。ちりぺっぺはぴんと耳を立てて、朧を警戒している。 「我々の代表が会議に参加できないということは、それ即ち我が一門の破滅が近いということ。そんなことは絶対にあってはならぬのです」 朧の顔からついに笑顔が消えた。今までに見たことがない真剣な表情。 場の空気が一気に引き締まる。 その真剣さに、春月は感心した。朧は朧なりにみんなのことを考えてくれていたのだ。 それと同時に、もう少し自分の死を悲しんでくれても良いのでは?とも思った。 しばらくの沈黙が続き、全員が朧を見つめる。誰もが朧の次の発言を待つ。 そして、ついに朧が口を開いた。 「ということで、私は次期頭領は、霞さんがいいと思うのですが。誰か異議とかあります?」
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