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「財布は必要だな」
一方の春月は、財布の中身を見ていた。
春月の財布はいつもそこらへんに放ってある。
そもそも、お金の管理は基本的に朧が行っている。春月はあまりお金に関心は無かった。
陰陽師の仕事を頑張ればいっぱい稼げる。その程度の認識だった。
春月の財布には、十万円程入れられていた。もちろん春月は入れていない。おそらく朧が入れたのだろう。
(そういえば霞の財布に五千円戻さなきゃ)
思いだし、霞の財布を探そうとする。
しかし、どこへやったか思い出せない。おそらく昨日着ていた服のポケットに入れたままなのだろう。
適当に探すと、例のダサい狸パーカーの中にそれはあった。
中には四万五千円とおつりとレシート。
春月は自分の財布から五千円を戻そうとする。
そして、自分の財布に五千円札なんて無いことに気づいた。
銀行からおろしたてのやけに綺麗な一万円札が十枚。
五千円札をもらって、一万円札を入れておけば解決することだ。
それは春月も気づいてはいた。
しかし、それが実行されることはない。
一万円札を一枚。雑に霞の財布に移す。
犬になってしまった霞が財布を使うことなんてもうないのだ。
それならば、どちらの財布にどれだけ入っていたところで同じだろう。
蔵のほうを見て、骨に夢中のちりぺっぺを見た。
結局二つの財布はまとめて大きなバッグに入れられることになる。
しばらくして、ちりぺっぺはようやく骨をかじるのをやめた。
かじるのに飽きたのだろうか。
そういえば春月はどこへ行ったんだろう。
辺りを見回すと、すぐそばにいた。寝っ転がって何か見ているようだ。
ちりぺっぺはそれを見つけると、走っていって迷いなくそれの上に乗る。それは雑誌のようだ。
ちりぺっぺはその上でおすわりをする。
霞が足元を見ると、何やら間取りのようなものが少しだけ見えた。
「何を見ているんだ?」
霞は春月に尋ねる。
「物件情報だけど」
春月は何を考えたのか、今から物件を探す気のようだ。
しかし、ちりぺっぺが上に乗ってしまったため、何も見れなくなった。
しばらくそうしてゴロゴロしていると、何やら蔵のほうが騒がしくなってきた。
春月は荷物をもって自分の寝室に移動する。
そこからであれば、ある程度会話の内容も聞くことができたからだ。
ちりぺっぺは移動する春月の後ろにぴったり寄り添う。
「これはまぁ、なんとも細かくなっておりますねぇ」
これは朧の声だ。
「皆さん、手分けして瓦礫をトラックに積んでください。道具は正門のところに置いておきました」
どうやら蔵の瓦礫をどうにかしようとしているらしい。
「すみません朧さん、運搬に術符を使ってもいいですか?」
誰かの声に続いて朧の声が聞こえる。
「構いません。術符も正門の木箱に用意しております。もちろん他のやり方でも構いません。ただし、屋敷にぶつけたりしないように」
このままだと元の春月の体が見つかるのも時間の問題だろう。
息を潜めて会話を聞いていると、突然寝室の戸が開いて誰かが入ってきた。
それは、朧だ。
「おや、霞さん。こんなところで何をしているのですか?」
暗い寝室にまぶしい光が差し込む。朧の顔は逆光でよく見えない。
きっちり制服を着た朧は、今の春月にはひどく恐ろしく見えた。
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