【序】雪の降らない街

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 簡素な椅子から身を乗り出して、ガイは正面のモニターを凝視していた。その表情は険しく、眉間には皺が刻まれている。寝ないでモニタリングをしていたせいで、無精ひげが生えている。それさえなければ、そして普段のような笑顔を浮かべていたならば、三十六歳という実年齢よりも若く見えるのだが、現在の眼差しやその風貌は、彼を年相応に見せている。  ――状況は、お世辞にも芳しくない。  今、モニターの向こうでは、この地域、もっというならば会津深雪市の正義の味方であるハルキが戦っている。この国中に、今、異邦神(いほうじん)を倒すために、正義の味方とそれを支援する者がいる。これは一般の国民には知らされていない現実だ。多くの場合、異常気象として片付けられる気候の変化が、それらの場所には見られやすいが、国を挙げてそれらは隠蔽されている。  異邦神というのは、天空にある闇青国(あんしょうこく)ドゥルンケルハイトが地上に降りてきた者達のアジトから、放たれている。その者達は、いわゆる悪の組織だ。それらは、日本中に存在する、霊脈の随所に施された封印を破壊し、そこに闇青国の力を流して、日本を制圧することを目的としている。霊脈に闇青国で生成した粒輝力(こうきりょく)の青闇粒子を大量に流し込むことで、日本列島の属性をドゥルンケルハイトと同一に変化させることが目的だ。それを達成すれば、日本列島は目には見えない部分で、ドゥルンケルハイトの一部という扱いになる。各大陸には、それぞれの色があり、その色を変える事で、自国の属国などにすることが可能だ。  霊脈というのは、日本列島の大地に走っている、目には見えない水路のようなものだ。現在は、そこには、日本特有の色彩の力が流れている。その特に脆い場所には、色が変化してしまわないようにと、古から現在に至るまで、国の要人が、封印を施している。  その封印を破壊されれば、その綻びから、別の色の水が流れ込んでくるようなイメージだ。
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