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side : 雨宮遥
昔から人の世話を焼くのは嫌いじゃなかった。そこに見返りは求めていなかったし自分が誰かの力になれるのが嬉しかった。でもいつだったか、「イメージと違って鬱陶しい」とか「何を考えているのか分からなくて不気味」とか、キツく言われてしまって。
それからはなるべく人と関わらないように、喋りすぎないようにするのを心がけていた。もともと表情が分かりにくいと言われていたけど、さらにそれは顕著なものになった。
でも……
「あ、書記の先輩か!」
俺を見て放たれた低い声。第一印象はメロン。そんな変わり者の強気な後輩が俺にできた。少し口は悪いけどいつだって明るくて落ち着いていて、俺なんかの気持ちすら察することのできる優しい後輩。
「俺、ウザイだろ」
彼の優しさに甘えている自覚があり、ついにそう聞いてしまった。否定して欲しくて聞いてしまっている自分が情けなくて、聞かなかったことにして、と断ろうとした瞬間。
「何が?」
本当に分かっていなそうな顔で尋ねてきた彼に心底驚いた。
「俺色々雑だしむしろ助かってますよ」
「てか俺の方こそ喋りすぎてウザくね?先輩静かなの好きそうなのに平気ですか?」
「確かにスゲェ準備いいなぁって思うことはあるけどさ。全部先輩が優しいからじゃん?俺優しい人好きだよ」
そう言って彼は、なんてことないように朗らかに笑ったのだ。
太陽みたいだと思った。もっと仲良くなりたかった、それだけのはずだったのに……。
「来てくれて助かりました」
眉尻を下げて穏やかに笑う彼にぎこちなく笑い返す。
優成は笑うと幼くなる。三白眼で意志の強そうなその顔がくしゃっと崩れるのが可愛いのだけど、今はそう感じる余裕もない。
怜央に組み敷かれていた時も、斗亜にキスされていたのを見た時も、どちらも腸が煮えくり返りそうなほどの思いが胸を支配した。
これは、ズルをした罰なんだろうか。優成と仲のいい矢川蒼真くん。逃げ回っていた彼を見つけた瞬間、浅はかな考えが頭に浮かんだのだ。
優成を見つけられないなら、優成と仲のいい彼とペアになれば優成にももっと近づけるんじゃないかって。
「斗亜と遊びに行くの?」
ため息を飲み込みそう聞いた。純粋に心配な気持ち、そして醜い嫉妬が腹の奥で渦巻いている。今の感情が純粋な親愛だとはもう言えない。
優成は苦虫を噛み潰したような顔をして口を開く。
「そうなるな。やらかしました」
しっかり斗亜を嫌がっているようで情けなくも安心する。怜央のこともあって、何をされてもあまり怒れないタイプなのかと疑っていた。
「なら、ダブルデートは?」
誰にも取られたくない。その一心で俺は口を開いていた。元々頭の隅に置いていたものだった。
優成はぽかんとした顔になったあと、四人で出かけるってことですか?と少し楽しそうな顔で聞いてくる。いい反応にホッとしつつ、俺は何とも言えない罪悪感に襲われていた。優成が変なところで鈍感で助かったと思う。
優成はきっと執着心や独占欲を望まない。性的な目で見られたいとも思っていない。そんなさっぱりとした男なのに。
……俺は、もう君をそういう目で見てしまっているんだ。
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