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先輩二人が何やら話しているのをぼんやり見ているうちにやっと呼吸が落ち着いてきて、俺は情けない気持ちを誤魔化すように蒼真に話題を振った。
「そういや男同士って尻に突っ込むんだって。お前知ってた?怖くねぇ?」
「え、うん。美咲先輩から聞いたの?ちょっとまって、ほかなに吹き込まれた?」
蒼真が青ざめた顔で肩を掴みゆすってくる。やっぱりボーイズラブだかなんだかが好きなコイツは元から知っていたらしい。
キスされただけだと言おうと思ったけどなんとなく丸くおさめる気分にはなれなくて、眉を下げてやれやれと首を振りながら言う。本性バレちまえ、ばーか。
「俺のこと痛めつけたいんだって。こわいよなぁ〜」
「はぁ!?てかお前怪我までしてんじゃん!あいつかァァァ!」
やべ、思ったよりキレた。あと怪我はあいつのせいじゃないんだな、これが。見た目さらに痛そうになったのはあいつのせいだけど。
「テメェ会計ィィィィ!!!」
「すまん待て蒼真!」
予想の十倍ブチ切れてチビに殴りかかっていくのをうしろから羽交い締めにする。暴行沙汰はまずいぞ。
「ゆるさねぇ!」
「落ち着けって。な? おっと危ねぇ」
そこまでブチギレるほど俺が好きか。俺も蒼真好きだけど、その頭に血が昇った状態でつっこんでくのやめた方がいいんじゃねぇかなぁ。てかキレた時の言葉遣い俺のうつってね?
「何言ってくれてんだ!どういう趣味だ!まさかのSMか!?」
「██とか██責め最高だよねっ」
「優成こいつ駄目!近づいちゃ駄目!小悪魔とかぶりっ子超えてる!」
「今なんて言ってた?かんり?なに?」
「お前は知らなくていいから!!」
「後はせいぜい優ちゃんの██に██を██でつっこんで██なところを██で……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ものすごい悲鳴をあげて脅威の力で羽交い締めから抜け出した蒼真は真っ先に俺の両耳を手で塞ぐ。なんかすげぇ卑猥なこと言われてた気がするけどあんま考えないようにしとくか。世の中知らなくていいこともあるもんな。てか本性丸出しかよ。
「そうまぁ〜、耳痛い」
「…はそうい……じゃ、おれ……から!」
「聞こえねぇなぁ……」
マジで何だこの状況。なぜか放心状態でさっきから何も聞こえてなさそうな先輩に、よく分からんことを言ってるクソピンクに、俺の耳を塞いで叫びちらかす蒼真。そろそろ収集をつけなければと思った瞬間、先生がヒョコリと部屋に顔を出してきてその拍子に耳から手も離れる。
「騒がしいですね〜、どうしました?」
おっっそ。今更出てきやがった。
何はともあれちょうどいい。俺に腹を殴られたクソチビを押し付け、ギャンギャン言ってる蒼真をなだめ、先輩のことをツンツンする。
「先輩生きてますか?」
「あ、うん……」
お、なんか落ち込んでる。
変なもん見せたからかねぇ、なんて思いつつ気になっていたことを思い出して口を開いた。
「そういやなんで蒼真といたんですか?」
「たまたま転んで襲われてるとこを見た。優成経由で彼のことは知ってたから……」
「ペアになって助けたとか?」
「……あぁ。それで、矢川くん腕打撲したっぽいからここ来た」
「お、先輩優しい」
「……そうじゃないんだ」
俺の言葉になぜか先輩はさらに落ち込んでしまった。ムズいな、どうしたもんか。つーかすっ転んで打撲ってあいつはあいつでなにやってんの。運動神経大して良くねぇもんな。
「何にしろ来てくれて助かりました」
一人で何とかできるとか言った手前気まずいけど、今回ばかりは来てくれなかったらだいぶ雲行きが怪しかったからなぁ。
俺の言葉に、先輩は未だすっきりしない表情でぎこちなく頷いた。
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