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「ねえねえ、みんなとあっちで遊ばない?この幼稚園、でっかいブランコがあるんだよ」
「......」
「あとね、ウサギさんの色がね、白からきれいな灰色に変わったんだって。もうすぐ冬だからふわふわの毛になったんだって。一緒に見に行かない?」
「......」
「そうだ!明日うちでお月見するんだよ。お月さまでウサギさんがお餅ついてるところ、一緒にみない?」
「......」
引っ越してきて初めての幼稚園。知らない場所で思いきり遊びたいし友達もほしいけど、緊張で声が出なかった。固まったままの俺に飽きたのか、しきりに話しかけてきていたその子は、走って教室へ戻っていく。
「だよな......」
無口なやつといても、つまらないに決まっている。幼いながら涙をこらえていたときだった。
「お待たせ」
またその子が戻ってきた。
紙コップ2つを抱えて。
それぞれの底には糸がくっついていて、それが糸電話だとわかったと同時に片方を渡される。
「?」
「もしもしっ?」
「あ......もしもし......」
「お名前は?」
「えっと。俺は......」
なぜか糸電話だと会話が続いた。声が出なかったのに、電話越しというだけで緊張が解けたようだ。不思議なものだ。
だからだろうか。
電話なら......
なんでも話せる気がしたんだ。
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